けれど時折り、 そう、こんな風にふわりと落ちる桜の花弁を見ると、 あの人の事を思い出す。 ふわふわと、 掴みどころがないほど柔らかで、 それでいて存在感を残す、あの人の声。 『琴子さん』 あの声が、今も耳に残る。 夫にも、娘たちや息子たちにも。 誰にも内緒にしていた初恋。 桜と共に散った、淡い恋の物語。