「明日、戦地に赴きます」
「そんな……」
「だから、今日でさようならです」
彼はそう言って寂しそうに笑うと、
フェンスの隙間から手を伸ばした。
網目の大きさは、普通の男の人の手ならば通らない。
私くらいの手の大きさでようやくといったところだ。
けれどもやせ細った秀二さんの手は
そのフェンスを易々と通り抜けた。
「秀二……さん」
震える声で、その伸ばされて手を握る。
冷たくてごつごつしている。
それは生の力をあまり感じさせない手だった。
彼の指に力がこもり、眼差しは私に強くそそがれた。
まるで見透かされるような、
気持ちの奥まで入りこんでくるような強い視線。
裸にでもされてるような恥ずかしさを感じて、
彼をずっと見ていたいのに、目をそらしてしまった。
息も出来ない。
喉元にこみ上げてくる感情に、視界が揺れる。
風が吹いてくれればいい。
この花弁を落として、私を隠してくれればいい。



