面会室から舎房に戻る間、私はつい数分前に見た弟の顔を思い返していた。


 お前…本当に老けたな……


 定年退職して既に四年。

 私と二つ違いでしかないから、弟が老けて見えたという事は、私自身が老いたという事になる。

 弟には散々迷惑を掛けて来た。

 行き当たりばったりな生き方をして来た私と違い、弟の達夫は常日頃からきちんとしていた。

 若いうちに両親を続けて亡くしたが、その時も弟が全部面倒な事をやってくれた。

 当然、私のような出来損ないは親戚中から相手にされず、唯一弟だけが困った時には助けてくれた。

 そして、今もまだ彼に迷惑を掛け続けている。

 私が強盗殺人事件を起こした事で、弟を取り巻く環境も大きく変わってしまった。

 丁度就職活動をしていた弟の息子は、殺人鬼の甥という看板を背負わされ、希望の就職先には就けなかった。

 娘に至っては、将来の結婚とかを考え仕方なく親戚へ養女に出したらしい。

 達夫自身も勤め先を何度か変える事を余儀なくされたし、私の為に多くの人間の運命が変わってしまったのだ。