塾のバイトを終えて帰宅すると、時間は11時。

 階段を上る前、部屋に灯りがついているのを見ると心が温まる。

「おかえり~」

 笑顔で迎えてくれる恵里を見ると、嬉しくなる。

 夕食の匂いがすると、幸せな気持ちになる。

「ただいま。腹減ったー」

「すぐ準備するね」

 ネクタイを解き、シャツを脱いで部屋着に着替える。

 これから合コンの相談をしなければならないと思うと、少し気が重くなった。

 テーブルの前に座り箸を握ろうとすると、恵里の怒声が飛んできた。

「先に手ぇ洗ってきて! 悪い癖だよ、ちゃんと手、洗わなきゃ」

「はいはい。すんませんねー」

 こんなところまでちゃんと見ている恵里。

 うちの母親より厳しいかもしれない。

 手を洗い、やっと恵里の飯にありつくことが出来た。

 美味い。

 その長い爪で、どうやって料理をしているのだろう。