「実姫、好きな奴できたって言ってたから、もう関係ないし言わない方がいいのかもしれないとも思ったんだけど……でも、田宮の事、一応伝えときたくて。

田宮に同情したのかもしれない。……ごめん」



啓太がどれだけバスケを好きだったかは、あたしもよく知ってた。

中学3年間をバスケに費やして、高校もスポーツ推薦で決めた。


高校入学前の春休み、公園で自主練習する啓太を、あたしは何度も見に行った。

休みがあっても、あたしといるよりもボールといる方が多かった。

リングを狙う真剣な表情も、汗を拭きながら笑い掛ける笑顔も……まだ、ちゃんと覚えてる。


……―――それなのに。

高校に入ってから、啓太の口からバスケに関係する話題は一度も出なかった。


『最近、バスケどう? 部活楽しい?』

不思議に思ったあたしはそんな事を啓太に聞いて……笑顔を向けたあたしに、啓太は険しい表情を返した。

……そして、その時初めて手を上げられた。



「本当は黙ってようと思ったんだ。けど……昨日、たまたま田宮に会っちゃって。しかも話とかしちゃって……」

「啓太と話……?」


和馬の言葉に、あたしは顔を上げて和馬の顔をじっと観察するように見つめた。

その行動の意味に気付いた和馬は、困り顔で笑う。


「いや、殴られてないから。

俺、夜軽く走ってるんだけどさ、その途中で走ってる田宮見つけて……向こうも気付いて。

で、なんとなく話してたんだけど……田宮、実姫の事言ってた。つぅか、俺が実姫の事で少し責めたからなんだけど」