大好きで大好きで、結婚に反対して家出しちゃうくらい好きだったお兄ちゃん。

そんなお兄ちゃんのいない家に、やっと慣れてきてたのに。


今更帰ってきて、すき焼きなんか作っちゃって、あったかい気持ちにしてくれちゃって。

そんな事して、あたしの生活に入り込んだ後、自分はまた里香さんのいる家に帰っちゃうんだから、こっちはいい迷惑だ。


また、寂しい思いをするのはあたしなのに。


「……お兄ちゃん、本当に何のために帰ってきたの?」


ご飯を食べながら聞いたあたしに、お兄ちゃんは黙る。

そして、困り顔で微笑みながら顔をあげた。


「家を出て、ずっと後悔してきた事があったんだ」

「……なに?」

「おまえは、知らなくていい」


じゃあ中途半端に言わないで欲しい。

そこまで言われたら気になるし。

だけど、お兄ちゃんの微笑みにそれ以上聞く事はできなかった。


お兄ちゃんと二人の夕食。

その暖かい時間を、くだらない口げんかで終わりにしたくなかったからかもしれない。


お兄ちゃんに帰って欲しいのか、いて欲しいのか……自分の気持ちが、分からなかった。