何も持ってないあたしが、樹の陸上まで奪うの? あたしだけだったらいい。 あたしが一生懸命になれるモノがないってだけなら、樹に「別にいいんじゃねぇ?」って笑顔をもらうだけで落ち着くんだから。 だけど……。 樹は……、樹は、ちゃんと頑張れる道を持ってるのに。 ずっとずっと、頑張って追ってきたのに。 それを、あたしが……、 何もないあたしが、奪うの? そんなの―――…… 「瑞希?」 松永の声が、冷たい地面に寂しく落ちる。 地面を踊る落ち葉が、カサカサと乾いた音を立てた。