「A」への怒りが徐々に膨らんでいく。
俺なら、そんなこと言わない。
嫁に来るなら働かなくたっていい。
家事が苦手なら、分担したっていい。
俺のほうがずっと三村を幸せにできる。
「それにあたし、最近小出に恋してるから……。彼に対する気持ちなんて、もう全然わかんなくて」
目を潤ませながら、三村は右手で指輪のない左手の薬指に触れる。
俺は煮えてきた鍋の火を一旦止め、三村の隣に移動した。
三村の幸せが考慮されていない「A」の考えが許せない。
そんな男に、三村を渡したくない。
自分の中で、一つの決心が固まる。
三村の両手を取り、しっかりと見据えた。
「俺、最近三村のことばっかり考えてる」
「……小出?」
「俺なら、そんな思いはさせない。お前が一緒にいてくれればそれでいい」
「え……?」



