「彼氏と、ちょっとね」
濁すように言った三村は、煮立った鍋に具を入れ始めた。
「お前が泣くなんて、ちょっとって程じゃないだろ」
ポチャン
「あつっ」
箸から具を落としてしまい、跳ね返った出汁が三村の指を刺激した。
「おい、大丈夫かよ」
慌てて手を取り、俺のグラスで指を冷やす。
「大丈夫だよ、これくらい」
三村は力なく笑いながら手を引っ込めた。
幸い火傷にもなっていないようだ。
「大丈夫だったら、そんな顔するんじゃねーよ」
「どんな顔してる?」
不幸そうな顔、なんて言えない。
今の彼女の顔は、久美とケンカした時の俺と同じような顔をしている。
俺なら……そんな顔、絶対にさせない。
根拠のない自信は、転じて「A」への怒りになっていく。
鍋に食材を入れる係は、俺がやることにした。



