ペアリングを外して


 俺たちは個室のある店に入り、そこでゆっくりと話をすることにした。

 二人で会うときはいつも、店は三村のチョイスだった。

 今回初めて、俺から店を提案した。

 障子で仕切られた、畳の個室。

 テーブルの下は掘りごたつになっている。

 ここで温かい鍋でもつつけば、きっと少しは笑顔になってくれるだろう。

 いつもは姉御三村に世話してもらう俺も、今日は紳士的に振舞いたい。

「ほら、コート」

「ありがと」

 三村のコートをハンガーにかけ、座らせて、俺も向かいに座る。

 この日三村の手には、すでにペアリングがなかった。

 鍋料理のコースと飲み物をオーダーし、しばらくしてそれが運ばれてくる。

「ごゆっくりどうぞ」

 そう言って店員が障子を閉めたとき、ようやく俺は話題を振った。

「昨日、何があったの?」

 三村は笑って俯く。

 こんな顔をさせる「A」が許せなかった。