視線を戻せば片手を俺に差し出している。

 ここで断るのもおかしい。

 俺は黙って久美の手に携帯を乗せた。

 受け取った彼女は、そのままカチカチと操作を始めた。

 大丈夫。

 三村とはもっぱら電話でコミュニケーションを図っているし、メールをしたことはほとんどない。

 そのメールも着信履歴も、お互いに消去している。

 何も証拠は残していない。

「ねえ、湯本って誰?」

「ああ、中学の同級生」

「それだけ?」

「あ、大学も一緒だった」

「そう」

 久美が質問してきたのは、湯本だけだった。

 誕生日のメールが来ていたからだろう。

 俺は潔白を濃厚なものにするため、テレビを見ながらこう言った。

「社用の携帯も見る?」

 久美は首を横に振った。