ペアリングを外して


 まるで声を対価に人の足を手に入れた人魚姫のようだ。

 俺の場合、男だから人魚王子といったところか。

 もしアンデルセンに代わって「人魚王子」という話を作るとすれば、だ。

 人魚王子は浮気者で、決まった相手がいるのに別の女をこっそりと愛することになる。

 どちらか一方を選ばなければならなくなり、葛藤に苦悩する。

 続きはこれからのお楽しみ。

 俺は泡になって消えることができない。

 そしてどう転んでも平和で感動的な展開にはならない。

 アンデルセンなら、ラストをどう書くだろうか。



 じゃれ合いながら妄想にふけっていた時、三村の携帯が鳴り出した。

 彼女は一言謝ってベッドで電話に出た。

 人差し指を唇に当てるジェスチャーでわかる。

 同棲相手の「A」だ。

「もしもし、どうしたの? うん。終電までには帰るから、大丈夫だよ。はーい、帰る前にまた連絡するね」