「さ、座って座って」

「うん」

 湯本が三村を俺の前に座らせた。

 気を使ったんだと思う。

 ふと三村と目が合った。

 一瞬恥ずかしそうな顔をして俯いた彼女に、俺は十年前の気持ちをぶり返してしまった。

「あの、何飲む?」

 たまたまメニューを持っていた俺は、さりげなくそれを差し出した。

 化粧が施された顔が再びこちらを向き、上品に飾られたネイルの手がそれを受け取る。

「じゃあカルピスサワー」

 端に座っていた湯本がそれを店員に注文し、三村はメニューを下ろした。

「小出幸雄、だよね?」

 わかってはいるだろうが、確認をされる。

「そうだよ」

 頷くと、三村は嬉しそうに微笑む。

 当時と同じ胸の詰まる感情を持て余した俺。

 もう酒なんて喉を通らない。