「取り戻す? 十年前を」
「え?」
言っている意味がわからなかったわけではない。
本気なのか冗談なのかがわからなかった。
「あたしね、今でもたまに思い出すんだ。小出のこと」
大人になった彼女が、十年前の俺の気持ちを掘り出していく。
「たぶん今でも、忘れてないんだと思う……」
うるんだ上目遣いは、反則の武器。
三村にも相手がいて、俺にも相手がいる。
そんなこと、どうでも良くなってしまうほど……俺はこいつに、酔っていたのかもしれない。
公衆の面前だというのに、俺たちはその場で唇を重ねた。
十年越しに叶った恋は、レモンの味がした。
勢いのままに駆け込んだホテル。
三村はそこで、まず薬指の指輪を外した。
そして互いに、溺れる。
十年抱え込んだ思いが全て伝わるように、俺はただがむしゃらに三村を抱いた。



