素直になれない私を、彼は笑う。

 嫌な奴。

 人の気も知らないで。

「まぁそう言うなって」

 窓の真ん中に影が見えた。

 慌ててカーテンから手を離す。

 ガチャッ

 カラカラカラ……

「さぶっ!」

「え? 窓開けたの?」

 私は再びカーテンをめくる。

 メガネをかけている歩が顔を出していた。

 私も窓を開けてみた。

 刺すような冬の空気が入り込む。

「さむっ」

 鳥肌を立てながらも、電話を耳に当てている歩から目が離せない。

「恵里」

 生声より少し遅れて、携帯からも声がした。

「今からこっち、来ない?」

 彼のその一言は、まるで催眠。

 予想外の言葉に私は判断力が鈍ったんだと思う。

「いいよ」

 私はこう答えてはいけなかった――。