――そうやって生きていくことなんか、できないんだ。できなかったんだ。


ある日母親がまだ幼かったアオの手を握り、マンションの屋上の淵に立って遥か地面を見下ろしていた。
繋がれた手が痛くて堪らなかった。

空は透き通るように青く、どこまでも突き抜けるように、高く。
アオはただ母親に従い何も言わずその姿を見上げていた。


『ひとりは、さびしいでしょう…?』


尋ねた母親に、アオはふるふると首を振った。
強がりじゃなくて本音だった。

アオはいつもひとりだったし、その方が楽だった。
ひとりに慣れていた。

そんなアオに母親は『そう…』と一言だけ零し、薄く笑った次の瞬間。
かたく繋いでいたアオの手を、離した。

そしてひとり暗闇へとその身を投じ、消えていった。