――〝目に見えない繋がり〟? そんなものになんの意味があるというのか。そんな不確かなもの、俺は求めていない。

そんなものただの幻想で、非現実に逃げているだけの世迷い言だ。

――俺は──


「──アオ先輩……っ!」


悲鳴にも似た声に自分の名前を呼ばれ、アオは反射的に振り返った。

いつの間にかこの名前も、定着してしまった。
本当の自分の名前ですら無いのに、うららにとって、この世界にとっての真実となった。

切羽詰ったような顔で小屋の扉から駆け寄ってくるうららのその様子にアオはふと我に返り、無駄話をし過ぎたなと頭の片隅で思った。

いつになく動揺しているうららは、そのまま躊躇無く体ごとアオに突っ込んできた。
予期せぬ出来事ながら、自分でも意外なほどしっかりとそれを受け止めて。
しがみつくその頭を見下ろしながら、ずり落ちたメガネを押し上げる。


――なにをしているんだ君は。


そう口にするよりはやく、腕の中から俺を見上げたその瞳には大粒の涙を溜まっていた。
堪えきれなくなったように、まくしたてるように、一息にうららは吐き出した。


「ソラが……! ソラがの様子が、おかしいんです…!! 顔色が悪くて、震えも止まらなくて、身体もすごく、つめたくて…! どうしようわたし、あんなに側にいたのにぜんぜん気付かなかった…! アオ先輩助けてくださいソラが──…!」


言葉と同時に、その瞳から大粒の涙が溢れアオの腕に吸い込まれていく。
とめどなく零れる光の粒。

感情的な人間は嫌いだった。
いつだって自分を押し付けるばかりだったから。

それに変わりはないはずなのに。
アオは何故か目が離せなかった。