「すごーい、なんて中途半端」


一番に声を上げたのはリオだった。

一様に向けられている視線の先は同じモノのはずなのに、微妙にずれている違和感。
そしてその後の会話に、アオの目に映っているものとアオ以外の興味が注がれているものが異なるのだと理解した。


「なんで最後まで切らなかったんだろうねぇ、これ。倒れてきたら危ないよね」

「そこに家があるし、誰かが作業の途中なのかもしれませんね」


「にしちゃあ、切り口はあんま新しくねぇぞ。つーよりは、結構前に切られたようなカンジだけどな」


──なるほど。

皆の視線の先には、アオが見ている〝ソレ〟ではなく、途中まで切られた大木の、中途半端な姿が奇妙に映っているだけなのだろう。

アオにはその傍らにいる、斧を振り上げたまま動かない錆びたブリキの人形らしきものの方が、よっぽど奇妙に映っている。


──〝ブリキのきこり〟。


アオの脳裏にそんな名称が浮かぶ。
記憶がおぼろげながらも、そんなキャラクターが居たはずだ。
確か。


『──あぁ、嬉しいなぁ。ようやく人に会えた』


その声は自分に向けられているものだと、なぜかすぐに理解できた。
名前を呼ばれたわけでも視線を向けられたわけでもないのに。

そしてその声はやはりアオだけじゃなく、うららの耳にも届いたらしい。
うららはびくりと肩を震わせて、きょろきょろとあたりを見回している。

その様子から察するに、どうやらうららには声は聞こえるが、姿は見えないようだった。


『もうずっと、ここから動けないんだ。ボクを助けてくれないかい?』


自分に向けられるその声にアオは一切反応を返さなかった。
うららは自分にしかその声は聞こえないと思ったのか、近くにいたソラのシャツを握り固く口を閉ざし俯いた。

懸命な判断だ、とアオは思う。
自ら余計な厄介ごとに関わるなど、愚考だ。

メガネのフレームを押し上げながら、アオはゆっくりとブリキのきこりから視線を外した。

彼を助ける義理など、アオには無かった。