気がつくとうららは、ソラの腕の中に居た。
その細い腕でしっかりと強く、抱きしめられていた。

うららの耳元でソラがささやく。
それは優しくも悲痛な叫びに似ていた。


「…うらら、いいんだ…無理になんか、思い出さなくたって…泣きながら思い出す記憶なんて、要らないんだよ…うらら」


――泣いてる…? わたしが? だってソラのほうがこんなに、震えているのに。


「…でも、ソラ…わたし、思い出したの…かかしの、言った通りだったの」


ソラの肩越しに映る家の中の景色は、今や見覚えのあるものばかりだった。

幼い時の記憶のそれとはわずかに景色が違うけれど、だけどここは間違いなく、うららが幼い頃を過ごした家。


「ここは…わたしが昔、住んでいた、家。わたしと、ママと、パパと…それから…」

「いいんだ、うらら…もう、十分だよ。だけどうららが帰る場所は、ここじゃない。ここはうららの、昔の家。そうでしょう…?」


きつく触れ合っていた体がやっと離れ、だけど急に遠ざかる熱に胸がふるえた。

ソラの青い瞳に映る、うららが揺れる。
それからソラの大きな手が、うららの頬の涙をそっと拭ってくれた。


「帰る場所さえ見失わなければ、何度だって僕が呼ぶから。僕はここに、居るから──」


夢の続きのようなソラの言葉がうれしくて、それに応えたいのに意識はゆっくりと遠のいていく。


──熱い。


灯る熱がじわりと膨らむように、スカートのポケットの中でそれは存在を主張していた。

だけどそれを確かめる間もなく、うららは意識を手放していた。