力を込めて押し開いた古い木製の重たいドアの向こうに、白い世界が広がっていた。
溢れる光の眩しさに思わず目を細める。


――おかしいな、さっきまで夜だったのに。星があんなに、瞬いていたのに。


花と緑と土の匂いがする。
それから、人の声。
次第に引いていく光の中、人影が揺れた。

女の子と、その女の子に合わせて背を屈めて話す女の人。顔はよく見えない。


『うらら、この鍵は、ぜったいに失くしちゃダメよ? 失くしたらお家に帰れなくなるからね』

『うん、でも、だいじょうぶよ、だって───がいるもん』


――だれの声? 


うららと呼ばれた女の子は、おそらく幼い、自分。
その〝わたし〟が話しかけている女の人は──


『───がいつも来てくれるとは、限らないのよ?』


仕方なさそうに、笑うその顔。
泣きたくなるくらい、やさしい声。


――ママ…わたしの…ママだ…


『大丈夫だよ、うらら。帰る場所が変わらない限り鍵は必ず、戻ってくる』


ふたりの向こうからもうひとり、今度は年配の女の人が現れる。
白髪の混じるブロンドをやわらかく揺らしながら、しわの刻まれたその手が幼いうららの頬に優しく触れた。


『〝鍵〟と〝扉〟は、決して離れられない。〝絆〟があるから』

『……きずな…?』


『そう。例えどんなに遠くても、離れていても、見えなくても。帰りたい場所を見失わなければ、声は聴こえる。必ず互いに、呼び合っているから──』


優しく語るその声音。
見間違えるはずない、それは。


──おばあちゃん。大好きな、おばあちゃんだ。