「……わーお」

『せっかくだから、もっと驚いた顔してくれないかい? 君にはせっかく表情があるんだから』


紛れも無くその声は、そのかかしから聞こえてくる。

藁を詰められた袋には、いびつな目と鼻と口が描かれていた。
その頭にはとんがり帽子。

胴体は青い擦り切れた布に藁が詰まっているようで、腕の先からそれが飛び出していた。
足にはつま先の青い古びた長靴を履いている。

背中に竿を差し込まれ、その竿は棒に括り付けられている。
背の高いとうもろこし畑を見渡せるほどの位置で、自分を上から見下ろしていた。


「…いま、しゃべったの、きみ?」

『もちろんさ。ちゃんと口が、あるだろう?』


ペンかなにかで描かれたような口から、確かにその声は聞こえるけれど。


――…でもまぁ、絵本の世界だっていうし、しゃべるかかしくらい、居てもおかしくはないか。少し驚いたけれど。


リオはひとり納得し、柵に腰かけ直す。
そこにとうもろこしを数本小脇に抱えて、少し不思議そうな顔をしたソラが近づいてきた。


「リオ先輩、どうしたんですか? ひとりでぶつぶつと」

「おー、ソラくん、ちょうどよかった。みてみて、しゃべるかかし。残念ながらあんまりファンシーじゃないけど」


からからと笑いながらリオが指差した方角を、ソラがつられるように見上げる。


「ああ、そうだ。このかかしが教えてくれたんだけど」

「リオ先輩…」


リオの言葉を遮って、その目が自分に向けられた。
困ったような、戸惑いの滲んだ苦笑い。

そして今度はソラの言葉に、リオは自分の耳を疑うことになった。


「僕には棒と竿しか、見えないんですが…」