生徒は各々一番苦手な教科を申告し、担当の講師がいる部屋で課題や自分の勉強をするというユルいシステム。

私は国語担当である。

高校生においては現代文と古文まで対応する。

俊輔から手渡された名簿を見て、私は思わず声をあげた。

「これだけ?」

A4サイズの用紙に印刷された名簿には、二人の名前しか記載されていない。

「うん。2名。楽勝っしょ?」

俊輔が何でもないような感じでヘラっと笑う。

こんなに少ないのに、本当に私は必要だったのだろうか。

この合宿、採算取れてるの?

そんなの私が心配することではないとわかってはいる。

だけど大手進学塾でたくさんの生徒にか困れているからか、考えずにはいられない。

「なんていうか、やり甲斐ないね……」

「まぁ、どうしても英語とか数学に人気が集中するし、国語は毎年少ないよ。でも案外他のクラスの生徒が質問に来るから、そのつもりで。高校生が古文の質問に来るパターンが多いかな」

「わかった」

わたしにもちゃんと存在意義はあるのね。

それならよかった。

担当するのが二人なら気も楽だとプラスに考えよう。

私だってこの塾では新人同然だ。

あんまり多いと対応しきれないかもしれない。

二人だけなら名前だってすぐに覚えられるし、仲良くなってしっかり勉強してもらおう。

私は少し緊張しつつ、他の部屋に比べてこぢんまりとした国語部屋に入った。

「こんにちはー」

2名の生徒はすでにその部屋にいた。

中3、重森一(しげもり はじめ)。

高1、松野さやか(まつの さやか)。

名前はリストを確認し、頭に詰め込む。

見知らぬ私の顔を見て、二人は訝しげな顔をした。

「誰?」

最初に言葉を発したのは、男子、重森の方だった。

初対面の私に対し、遠慮なく嫌そうに顔を歪めている。

目上の人に対して初対面からこの態度、ある意味大物というべきか。

私は心の広い人間だ(と思っている)。

この程度で怒ったりはしない。

「この合宿の国語担当になりました、佐々木彩子です。よろしくね」

できるだけ愛想良く、優しい先生だと思われるような顔を作って挨拶。

私は知っている。

生徒という生き物は、優しそうな若い女の先生が好きなのだ。

ところが二人は私と目も合わさず、小さな声を出す。

「よろしくお願いしまーす」

目も合わせない。

声も小さい。

そして無表情。

いや、むしろ心底嫌そうな顔をしている。

何? こいつら。

可愛くない。

全然可愛くない。