中山とは、変わらず教室で挨拶程度の言葉を交わしたり、たまにメッセージのやり取りをするくらいだ。

講習もあって夏を満喫できる雰囲気ではなかったし、あれ以来デートの誘いもない。

「別に進展はないけど」

私がそう答えると、茜は心底つまらなそうな表情を浮かべた。

「えー。あいつ、案外ヘタレなのね」

「そうなのかな。私はグイグイ来られる方が嫌だけど」

「……じゃあ、さくらに合わせてるのかも。だとしたら、かなり辛抱強いタイプだね」

中山は、こちらが申し訳なくなるくらいに優しい。

ルックスも性格も成績もよくて、スポーツもできるスゴい男子なのに、私のような面倒くさい女のどこを好いてくれたのか、本当に謎である。

モテるし、同じクラスの女子が彼のことを好いているという話も知っている。

彼は私への気持ちを隠さない。

中山と私の微妙な関係は、いつの間にかクラスの噂になっている。

おかげで彼を好いている女子からは睨まれるようになってしまい、居心地が悪い思いをすることも。

いっそのこと付き合ってしまえば、諦めてくれるのだろうけれど。

誠実だが狡猾な中山の作戦のひとつかもしれない……というのは、自意識過剰だろうか。