黒い塊から手が伸びてくる。
しかし、それは届かなかったのか、昨日のようになる事を恐れているのか…裕一郎のジーンズの裾を掴んだ。
「うわっ」
服を掴まれただけなのに、ゾッとする冷たい感触が伝わってくる。
彼の体はどうしようもなく委縮する。
「嫌だ、津久見さん!!」
裕一郎は尚人にしがみつく。
強い力で引っ張られ、影の方へと引き寄せられていく。
…がして…
…さ、がして…
…私の……を
力を使う事が出来ない…それが普段強気の裕一郎を怯えさせた。
ただ目を瞑って目の前の人に縋るしか出来ない自分を、無力と思いつつも何も出来ない。
そんな彼に小さくタメ息をつくと、両手で安心させるように軽く背中を叩いた。
それから、
「私の何?」
尚人は影に優しく問いかけた。
「僕らにどうして欲しいの?」
ゆ…びわ…
指輪、を…探して…
ない…
見つからない…
お願い…探して…
影は悲しげな声で、切切たる言葉で訴える。
「…」
尚人は彼女の右手首から下がない事に気づき、頷いた。
「あなたはここで心残す程大切な指輪を失くしたんですね。探したらきちんと自分の行くべき場所へ帰ってくれますか?」
その問いに、影が微かに揺れた。
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