………と、その時。
「止めるんだ!!」
自分を制する声と同時、背後から使おうとした左手を掴まれた。
「!!」
その瞬間、体が自由になる。
(あ…この香り…)
ふわりと鼻腔に広がるあの柑橘の匂いに、裕一郎は振り返った。
「君は指輪の意味を知っていて、その手を使うのか」
その人は、少し怒りを含んだ表情で立っている。
「使えば君に返ってくるよ」
「なんで…」
今の裕一郎に、彼の言葉は耳に入らない。
(なんでこの人が、ここに…)
裕一郎は驚きのあまり、酷く動揺していた。
「…どうして津久見さんが…ここに…」
信じられなかった。
前回会ってから半年以上、何の音沙汰もなかった彼が目の前にいるのだ。
自分の力を拒んだ人と、こうして話をしている事が信じられなかった。
「君はどうしてそう、力をむやみやたらと使おうとするのかな…」
「どうしてって…」
「彼女は君に助けを求めているのに、それを何も聞かず消すつもり?」
「…助け?」
「そうだよ。苦しそうな声で、必死に彼女は声を振り絞って君に訴えてる」
「そんな。助けなんて…聞き取れない。何て言ってるか、オレには分からない…」
裕一郎は弱々しく首を横に振る。
「違う…君は聞き取れないんじゃない、聞こうとしていないだけだよ。彼女は死者だ…元は生きていた人間だ。例え自ら命を絶ったとしても、この世に未練はあるだろう。力でねじ伏せてしまう前に、冷静になってごらん。君に害を為すか為さないか、それくらいの判断…力を持つ君に出来ない事はないんだ」
言われて、裕一郎は足元まで来た黒い影に目をやった。
だが、どうやってもそれが助けを求めているようには見えなくて、裕一郎は息を呑む。
触られればまた、例の力が働き互いに体が飛ばされるのではないか。
不安に目の前の景色が揺らいだ。
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