プァァァン…
電車がホームに入ってくる。
(やっと来た)
裕一郎は立ち上がると、ドアが開く位置に引かれた白線に進もうとした。
一歩。
足を前に踏み出した途端…急に周りの音が何も聞こえなくなる。
「!!」
照明が落ちて辺りが暗くなったように、人も電車も…全てのものが視界から消えた。
まるで時間が止まったような静寂に、彼はゴクリと唾を飲む。
(嘘…まさか)
裕一郎はそこから動けなくなった。
閉塞された空間に閉じ込められてしまい、恐怖を覚える。
ドクン
心臓が大きく跳ねた。
シンと静まり返ったホームに1人。
何が起ころうとしているのか…じっと暗闇に目を凝らして様子を窺っていると、
ごそ、ごそごそ…
目の前の落下防止柵の向こうで何かが動く音がした。
(…!?)
ごそり、ごそり
黒い影が乗り越えて、ズルリとこちらに向かってくるのが感覚で分かる。
ひたり…
ひたり…
影はホームを這う。
ひたり…
ひたひた…
息を殺した裕一郎に向かって、迷わず這ってくる。
黒い、黒い、影――。
それは昨日の夜、裕一郎の部屋に現われた霊と同じものだった。
(来る…どうしよう…こんな時に。久司がいない時に…)
逃げたい…でも足が動かない。
金縛りにあったように、声すら出ない。
ここで自殺した女の霊だと、裕一郎は直観する。
でもなぜ《自ら死を選んだ人間》が自分の前に現われる…?
訴えているのではなく、自分と同じように死の道連れにしようとしているのだろうか。
思念が強いこの場所では、昨日見た姿より、それははっきりと人の形をしていた。
…が…て…
わた…の……を…
…がし、て…
手が伸びてくる。
(ヤバい!!)
裕一郎はいけないと分かっていながら、束縛に逆らって握りしめていた左手を霊に向けて開こうとした。
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