Darkness † Marker 5 【彷徨う者】



プァァァン…

電車がホームに入ってくる。


(やっと来た)


裕一郎は立ち上がると、ドアが開く位置に引かれた白線に進もうとした。

一歩。

足を前に踏み出した途端…急に周りの音が何も聞こえなくなる。


「!!」


照明が落ちて辺りが暗くなったように、人も電車も…全てのものが視界から消えた。

まるで時間が止まったような静寂に、彼はゴクリと唾を飲む。


(嘘…まさか)


裕一郎はそこから動けなくなった。

閉塞された空間に閉じ込められてしまい、恐怖を覚える。

ドクン

心臓が大きく跳ねた。

シンと静まり返ったホームに1人。

何が起ころうとしているのか…じっと暗闇に目を凝らして様子を窺っていると、

ごそ、ごそごそ…

目の前の落下防止柵の向こうで何かが動く音がした。


(…!?)


ごそり、ごそり

黒い影が乗り越えて、ズルリとこちらに向かってくるのが感覚で分かる。

ひたり…
ひたり…

影はホームを這う。

ひたり…
ひたひた…

息を殺した裕一郎に向かって、迷わず這ってくる。

黒い、黒い、影――。

それは昨日の夜、裕一郎の部屋に現われた霊と同じものだった。


(来る…どうしよう…こんな時に。久司がいない時に…)


逃げたい…でも足が動かない。

金縛りにあったように、声すら出ない。


ここで自殺した女の霊だと、裕一郎は直観する。


でもなぜ《自ら死を選んだ人間》が自分の前に現われる…?

訴えているのではなく、自分と同じように死の道連れにしようとしているのだろうか。

思念が強いこの場所では、昨日見た姿より、それははっきりと人の形をしていた。



…が…て…
わた…の……を…
…がし、て…



手が伸びてくる。


(ヤバい!!)


裕一郎はいけないと分かっていながら、束縛に逆らって握りしめていた左手を霊に向けて開こうとした。

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