「お待たせ」
タオルで濡れた髪を拭きながら事務所に入ってきた裕一郎は、河村の向いのソファに腰を下ろした。
さっきに比べれば、随分スッキリとした顔をしているようだ。
「えらく長風呂だったな」
「ごめん、着てた部屋着を洗ってたんだけど、完全に汚れが取れなくて苦戦してた…」
「何だ、洗濯してたのか」
キチンとしなければ気が済まない裕一郎に、河村は苦笑した。
こんな時にそこまでしなくてもいいのに、と思う。
「…で、綺麗になったのか?」
聞かれて裕一郎は首を横に振った。
「鮮度の落ちた血液は、質が悪そうだからな」
クスリと笑った河村は、タバコに火をつける。
「ところで聞かせてくれ。あの部屋で一体、何があったのかを」
「…うん。ただの偶然なのかもしれないけど、夕方と同じ夢を見てさ」
「夢…」
「その夢が気持ち悪くて目が覚めたんだけど、その時の室内はいつもと変わらなかったと思う。すぐには眠れそうもないし、凄く喉が渇いてたんで台所に行こうとしたら、カギを掛けてるわけでもないのにドアが開かなくて…変だなと思った時には、背後に霊がいたんだ」
夢の延長なのか、全く別の出来事なのか…。
その堺がはっきりしない…酷く曖昧な記憶のように感じた。
「突然?」
「うん。形のない黒い塊みたいなものから、声がするんだ。何かを訴えてるみたいなんだけど、はっきりとは聞き取れなかった。それが分かれば、少しは正体を探るとか、話しを聞きだして手掛かりを掴むとか、何か出来るんだろうけど」
「…」
河村は黙り込む。
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