Darkness † Marker 5 【彷徨う者】



「お待たせ」


タオルで濡れた髪を拭きながら事務所に入ってきた裕一郎は、河村の向いのソファに腰を下ろした。

さっきに比べれば、随分スッキリとした顔をしているようだ。

「えらく長風呂だったな」

「ごめん、着てた部屋着を洗ってたんだけど、完全に汚れが取れなくて苦戦してた…」

「何だ、洗濯してたのか」

キチンとしなければ気が済まない裕一郎に、河村は苦笑した。

こんな時にそこまでしなくてもいいのに、と思う。


「…で、綺麗になったのか?」


聞かれて裕一郎は首を横に振った。

「鮮度の落ちた血液は、質が悪そうだからな」

クスリと笑った河村は、タバコに火をつける。


「ところで聞かせてくれ。あの部屋で一体、何があったのかを」


「…うん。ただの偶然なのかもしれないけど、夕方と同じ夢を見てさ」


「夢…」


「その夢が気持ち悪くて目が覚めたんだけど、その時の室内はいつもと変わらなかったと思う。すぐには眠れそうもないし、凄く喉が渇いてたんで台所に行こうとしたら、カギを掛けてるわけでもないのにドアが開かなくて…変だなと思った時には、背後に霊がいたんだ」


夢の延長なのか、全く別の出来事なのか…。

その堺がはっきりしない…酷く曖昧な記憶のように感じた。


「突然?」


「うん。形のない黒い塊みたいなものから、声がするんだ。何かを訴えてるみたいなんだけど、はっきりとは聞き取れなかった。それが分かれば、少しは正体を探るとか、話しを聞きだして手掛かりを掴むとか、何か出来るんだろうけど」


「…」


河村は黙り込む。

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