そこには、ただ飛び散っているだけではない…人間に掴まれたような指の形も見える。
「大丈夫だよ…これ、オレの血じゃないから…」
不快なのか汚れついでとばかり、Tシャツの袖でゴシゴシと頬についている血を拭いとる仕草をした。
そう言われても怪我をしているのではないかと心配で、河村は身を屈める。
確かにどこにも傷らしきものは、見当たらなかった。
「…みたいだな」
「だから言ってるのに」
どこまでも過保護な様子に、彼は苦笑した。
「とりあえず気持ち悪いから、シャワー浴びてきてもいい?事情はその後話すから」
「あぁ。今日は事務所のソファで寝ろ。こんな汚れた部屋に寝かせるわけにはいかないからな」
「分かった。じゃあ、ちょっと行ってくる」
そう言って、裕一郎は部屋を出て行った。
「ふぅ」
汚れたカーペットを見て、河村はタメ息をつく。
霊が通った後に残された血痕。
(何があったかは分からないが、どうやら霊を消滅させた訳じゃないみたいだな…逃げたとすれば、まだ間に合うか)
河村は蜘蛛を取り出すと、
「どこに行くか、霊の場所を突き止めてくれ」
窓を開けて外へと放つ。
闇に溶け込むのを確認すると、再び部屋の中を見回した。
(どこから入りこんだのやら…ったく)
裕一郎の部屋は方角が悪いのか、祓いを行ってもこうして時々霊がここに溜まるのだ。
古いビルなので家賃が安いからと入居しているのだが、少し考えなければならないかもしれない。
河村はとりあえず祓い札をドアの内側に貼ると、裕一郎の部屋を後にした。
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