「如月?」
突然立ち上がった親友に、啓太が首を傾げた。
裕一郎は視線を宙に彷徨わせて《何か》を追っている。
(ま、まさか、幽霊!?)
明らかにおかしな様子に、彼はギョッとした。
そんな彼の心を知らぬまま、裕一郎はそのままスタスタと玄関の方へ歩いて行く。
「…」
河村の視線が細められた。
「裕」
声を掛ける。
「裕」
だが、返事はない。
「おい、裕一郎!!」
河村は彼の後を追うと、肩を掴み引き止めた。
裕一郎はハッと我に返る。
「…久司、式が…追いかけないと」
「あれはどこにも行かない。お前は夕刻の外出を禁止してるはずだぞ」
「あ…」
「心配するな」
河村が手を上げると、玄関に向かいかけた式蝶は舞い戻って来る。
彼はそれを自分の指に止まらせ、裕一郎の前に差し出した。
「ほら」
式は大人しく銀の羽を休めている。
(何でオレの言葉はコイツに届かないんだろ…)
裕一郎は俯く。
(分かってる。式は久司のものだから…だから、何も教えてくれないんだ)
どこで何をしていたか。
この香りはどこからつけてきたものなのか。
どこへ行こうとしていたのか。
「……」
式蝶の事で落ち込んでいる自分に落ち込む。
「朝から連れていないなとは思ったが…まぁ、いい。後で話しは聞いてやるから、向こうに戻るぞ」
ソファでキョトンとして座っている啓太に視線をやると、河村は裕一郎の背中を押した。
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