Darkness † Marker 5 【彷徨う者】

        ☆


事務所のソファに座って久司、啓太とコーヒーを飲んでいた裕一郎は、何気についているテレビのローカルニュースを見て『あっ』と声を上げた。

今朝起きたA駅での、人身事故の様子が流れている。

「女性の飛び込み自殺だったのか…」

画面に映し出される顔写真に、裕一郎は呟いた。

亡くなったのは23歳の女性会社員。

遺体の損傷が激しかったが、現場に残されたバックの中の免許証から身元が判明したらしい。

落下防止の柵を自分で乗り越え、ホームに入ってきた電車に飛び込んだとの目撃証言も多数あり、その後遺書も発見されたようだ。

「まだ若いのにな…人生まだいくらだってやり直せるのに、命を粗末にするなんて」

世の中には生きたいと願っても、生きられない人たちがたくさんいるというのに。

河村が少し不機嫌に呟く。



「…………………!?」



だが、裕一郎の耳には河村の言葉もテレビの声も、何も入ってこなかった。

彼の目に飛び込んできたのは、テレビ画面の端に映る銀色の蝶。

ひらひらと、現場を飛ぶ不自然な被写体…。

それはすぐにカメラのアングルが切り替わり、レンズから消えた。


(何で…オレの式蝶が、あんな所に…)


呆然とする彼の視界には、もう1つ信じられないものが今ある。

それはその今までテレビに映っていた式そのものが、どこから入ってきたのか事務所の中を舞っていたのだ。


あの柑橘系の香りを纏って…。

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