「俺はやっぱりお前が嫌いだ。肝心な坊主の役目は果たせないくせに勘ばかり鋭くて、人の神経逆なでするような言い方ばかりをする…大体、裕の事だって…」
「しーっ」
双瀬は手の平で河村の口を塞いだ。
「余り大きな声出すと聞こえるぞ、隣の部屋の裕一郎に」
「…」
河村は彼の手首を掴んで、口元から手を離させる。
「大切な家族を失くしたくなかったら、その事は口にするなっておれ、前にもお前に言わなかったっけ」
「うるさい」
「おれはお前の事を心配して言ってるんだ」
瞳を細めた双瀬の顔から、スッと笑みが消えた。
「お前が傷つく姿なんて、2度と見たくねーんだよ」
「傷つく…?はん、10代のガキじゃあるまいし、そんなガラスの心を40近いおっさんが持ってると思うのか?」
「河村…だったらお前のそのか…」
「うるさい、さっさと帰れ」
怒りを押し殺した声音を吐くと、河村は顔を背ける。
その様子に小さく肩を竦めると、
「…はいはい。じゃあ、気が向いたら教えてくれよ、そいつの名前…じゃあな」
微かな香水の香りを残して、双瀬は去って行った。
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