カツン、と彼のローファーの音が、私の机の横で止まった。
ふわりとシトラスの香りがさらに濃くなって、隣の椅子が引かれる。ひなたくんが、私のすぐ右隣の席に腰を下ろした。
距離にして、ほんの数十センチ。横を向けば、すぐに彼の綺麗な横顔がある。近すぎて、息をするのすら忘れてしまいそうだ。
「……あの、さ」
「ひゃいっっ!?」
不意に、右側から少し低くて心地いい、ハチミツみたいに甘い声が降ってきた。
あまりの緊張に、私はマンガみたいに変な声を上げて飛び上がってしまう。
恐る恐る顔を上げると、ひなたくんが長い前髪の隙間から、その綺麗な切れ長の瞳で私のことをじっと見つめていた。
学校中の女子が憧れるその笑顔で、ひなたくんは、私の目を見つめたまま優しく微笑む。
「隣の席、よろしくね。……星野さん、だよね?」
「あ、う、うん……! こちらこそ、よろしく、朝陽くん……」
『星野さん』。
そう呼ばれた瞬間、私の胸の奥で、何かがパリンと切ない音を立てて割れた気がした。
やっぱり、そうだよね。
名字で呼ばれた。丁寧な、クラスメイトとしての挨拶。
あの日、お祭りの夜に「絶対に忘れない」って泣いていた小さなひなたくんは、もうここにはいない。彼は私のことなんて、ただの『昔、同じ街に住んでいた同級生』としか思っていないんだ。
「……私のこと、もう本当に忘れてるんだ……」
胸のポケットに入れたおもちゃの指輪が、急にひんやりと冷たくなったような気がして、私は泣きそうになるのを必死でこらえながら、またうつむくことしかできなかった。
だけど――私はまだ気づいていなかった。
うつむいた私の頭上で、ひなたくんが、これ以上ないくらい切なそうで、だけど熱い、激しい独占欲を隠した瞳で、私のことをじーーっと見つめていたなんて。
ふわりとシトラスの香りがさらに濃くなって、隣の椅子が引かれる。ひなたくんが、私のすぐ右隣の席に腰を下ろした。
距離にして、ほんの数十センチ。横を向けば、すぐに彼の綺麗な横顔がある。近すぎて、息をするのすら忘れてしまいそうだ。
「……あの、さ」
「ひゃいっっ!?」
不意に、右側から少し低くて心地いい、ハチミツみたいに甘い声が降ってきた。
あまりの緊張に、私はマンガみたいに変な声を上げて飛び上がってしまう。
恐る恐る顔を上げると、ひなたくんが長い前髪の隙間から、その綺麗な切れ長の瞳で私のことをじっと見つめていた。
学校中の女子が憧れるその笑顔で、ひなたくんは、私の目を見つめたまま優しく微笑む。
「隣の席、よろしくね。……星野さん、だよね?」
「あ、う、うん……! こちらこそ、よろしく、朝陽くん……」
『星野さん』。
そう呼ばれた瞬間、私の胸の奥で、何かがパリンと切ない音を立てて割れた気がした。
やっぱり、そうだよね。
名字で呼ばれた。丁寧な、クラスメイトとしての挨拶。
あの日、お祭りの夜に「絶対に忘れない」って泣いていた小さなひなたくんは、もうここにはいない。彼は私のことなんて、ただの『昔、同じ街に住んでいた同級生』としか思っていないんだ。
「……私のこと、もう本当に忘れてるんだ……」
胸のポケットに入れたおもちゃの指輪が、急にひんやりと冷たくなったような気がして、私は泣きそうになるのを必死でこらえながら、またうつむくことしかできなかった。
だけど――私はまだ気づいていなかった。
うつむいた私の頭上で、ひなたくんが、これ以上ないくらい切なそうで、だけど熱い、激しい独占欲を隠した瞳で、私のことをじーーっと見つめていたなんて。


