◇
手伝いを始めて数日が経ち、僕は少しずつこの時代の日常に馴染んでいった。
食堂にやってくる近所の人たちは、みんな戦況の悪化や物資の少なさに不安を抱えながらも、サクラの笑顔に癒されるように集まっていた。
サクラはどんなに力仕事が大変でも、けっして弱音を吐かない。
いつも食堂の裏手にある小さなひまわりを見つめては、自分を奮い立たせているようだった。
ある日の夕暮れ、仕込みを終えた僕たちは、食堂の縁側に腰掛けて涼んでいた。
トタン屋根の向こうには、燃えるような茜色の夕焼け空が広がっている。
「ハルさん、街が静かやね」
サクラが膝を抱えながら、ぽつりと呟いた。
「うん。綺麗だね」
「私ね、この街が大好きなん。お父ちゃんとお母ちゃんが守ってきたこの食堂も、みんなが笑ってご飯食べてくれるこの景色も。だから……ずっと、こうしてハルさんと一緒に夕日を見ていられたらええなぁって、最近思うんよ」
サクラの白い頬が、夕焼けの赤とは違う色でほんのりと染まる。
彼女のまっすぐな瞳が、僕の視線と重なった。
ドキリ、と僕の心臓が大きく鳴った。
それは病気のせいじゃない。
僕が、彼女に恋をしてしまった証拠だった。
守りたい。この愛おしい笑顔を、この温かい手を、ずっと守っていたい。
余命宣告を受けてから、投げ出すように生きてきた僕の心に、初めて「この子と一緒に生きたい」という強い光が灯った瞬間だった。
けれどその直後、僕の脳裏に、現代の歴史の教科書で見た『ある日付』が残酷に浮かび上がる。
(この街が、空襲で灰になるまで、あと3ヶ月もない――)
空を遮るように遠くから響いた、気味の悪い飛行機の爆音。
サクラは「また偵察機かな」と何も知らずに空を見上げていたが、僕の手は、恐怖と切なさで小さく震えていた。
手伝いを始めて数日が経ち、僕は少しずつこの時代の日常に馴染んでいった。
食堂にやってくる近所の人たちは、みんな戦況の悪化や物資の少なさに不安を抱えながらも、サクラの笑顔に癒されるように集まっていた。
サクラはどんなに力仕事が大変でも、けっして弱音を吐かない。
いつも食堂の裏手にある小さなひまわりを見つめては、自分を奮い立たせているようだった。
ある日の夕暮れ、仕込みを終えた僕たちは、食堂の縁側に腰掛けて涼んでいた。
トタン屋根の向こうには、燃えるような茜色の夕焼け空が広がっている。
「ハルさん、街が静かやね」
サクラが膝を抱えながら、ぽつりと呟いた。
「うん。綺麗だね」
「私ね、この街が大好きなん。お父ちゃんとお母ちゃんが守ってきたこの食堂も、みんなが笑ってご飯食べてくれるこの景色も。だから……ずっと、こうしてハルさんと一緒に夕日を見ていられたらええなぁって、最近思うんよ」
サクラの白い頬が、夕焼けの赤とは違う色でほんのりと染まる。
彼女のまっすぐな瞳が、僕の視線と重なった。
ドキリ、と僕の心臓が大きく鳴った。
それは病気のせいじゃない。
僕が、彼女に恋をしてしまった証拠だった。
守りたい。この愛おしい笑顔を、この温かい手を、ずっと守っていたい。
余命宣告を受けてから、投げ出すように生きてきた僕の心に、初めて「この子と一緒に生きたい」という強い光が灯った瞬間だった。
けれどその直後、僕の脳裏に、現代の歴史の教科書で見た『ある日付』が残酷に浮かび上がる。
(この街が、空襲で灰になるまで、あと3ヶ月もない――)
空を遮るように遠くから響いた、気味の悪い飛行機の爆音。
サクラは「また偵察機かな」と何も知らずに空を見上げていたが、僕の手は、恐怖と切なさで小さく震えていた。

