◇
それからの日々、僕の身体は目に見えて衰えていった。
少し荷物を運ぶだけで息が切れ、胸の奥が焼けるように痛む。
けれど、サクラの前では一瞬たりとも苦しい顔は見せまいと、必死に普通の青年を演じ続けた。
しかし、無情にも時間は進んでいく。
僕の命のカウントダウンだけでなく、この街の命のカウントダウンも、確実に進んでいた。
十月に入り、秋の気配が濃くなってきたある日のこと。
食堂の手伝いの合間に、僕は近所の壁に貼られた新聞の切り抜きを目にした。
そこには、日本の戦況が絶望的であることを隠すような、大本営発表の文字が躍っている。
(歴史の通りだ……。このままだと、あと一ヶ月もしないうちに、十一月二十四日には、この街に最初のB29の爆撃が来る……)
脳裏に、現代の歴史の教科書で見た文字が鮮明に浮かび上がる。
この『ひまわり食堂』がある一帯は、最初の空襲で最も激しい被害を受け、一面が火の海になるのだ。
(どうすればいい? 歴史を変えて、サクラに『ここにいたら死ぬ』って伝えるべきか? でも、記憶喪失の僕がそんな予言みたいなことを言っても、信じてもらえるはずがない。最悪、スパイだと疑われて捕まってしまうかもしれない……!)
もし僕が捕まったら、残されるサクラはどうなる?
でも、何も言わなければ、サクラは確実に炎に包まれてしまう。
「ハルさん、どうしたん? そんな怖い顔して新聞見つめて」
後ろから、サクラが不思議そうに声をかけてきた。
手には、食堂の裏庭で採れたばかりの、小さなひまわりの種をたくさん持っている。
「あ、ううん。なんでもないよ。今日も秋晴れで、空が綺麗だなと思って」
「本当やねぇ。お父ちゃんが帰ってくる頃には、戦争も終わって、またみんなでこの空の下で美味しいご飯が食べられたらええなぁ」
サクラは空を見上げて、愛おしそうに目を細める。
その横顔を見つめながら、僕の心は激しい葛藤でボロボロに引き裂かれていた。
神様、どうして僕なんですか。
あと数ヶ月で死ぬ僕の命なんて、どうなったっていい。
だからお願いです。この子の未来だけは、この子の命だけは、僕に守らせてください――。
遠くの空から、またゴォォォ……と、地鳴りのような飛行機の爆音が響いてきた。
それは前よりも確実に大きく、そして近くに迫っていた。
それからの日々、僕の身体は目に見えて衰えていった。
少し荷物を運ぶだけで息が切れ、胸の奥が焼けるように痛む。
けれど、サクラの前では一瞬たりとも苦しい顔は見せまいと、必死に普通の青年を演じ続けた。
しかし、無情にも時間は進んでいく。
僕の命のカウントダウンだけでなく、この街の命のカウントダウンも、確実に進んでいた。
十月に入り、秋の気配が濃くなってきたある日のこと。
食堂の手伝いの合間に、僕は近所の壁に貼られた新聞の切り抜きを目にした。
そこには、日本の戦況が絶望的であることを隠すような、大本営発表の文字が躍っている。
(歴史の通りだ……。このままだと、あと一ヶ月もしないうちに、十一月二十四日には、この街に最初のB29の爆撃が来る……)
脳裏に、現代の歴史の教科書で見た文字が鮮明に浮かび上がる。
この『ひまわり食堂』がある一帯は、最初の空襲で最も激しい被害を受け、一面が火の海になるのだ。
(どうすればいい? 歴史を変えて、サクラに『ここにいたら死ぬ』って伝えるべきか? でも、記憶喪失の僕がそんな予言みたいなことを言っても、信じてもらえるはずがない。最悪、スパイだと疑われて捕まってしまうかもしれない……!)
もし僕が捕まったら、残されるサクラはどうなる?
でも、何も言わなければ、サクラは確実に炎に包まれてしまう。
「ハルさん、どうしたん? そんな怖い顔して新聞見つめて」
後ろから、サクラが不思議そうに声をかけてきた。
手には、食堂の裏庭で採れたばかりの、小さなひまわりの種をたくさん持っている。
「あ、ううん。なんでもないよ。今日も秋晴れで、空が綺麗だなと思って」
「本当やねぇ。お父ちゃんが帰ってくる頃には、戦争も終わって、またみんなでこの空の下で美味しいご飯が食べられたらええなぁ」
サクラは空を見上げて、愛おしそうに目を細める。
その横顔を見つめながら、僕の心は激しい葛藤でボロボロに引き裂かれていた。
神様、どうして僕なんですか。
あと数ヶ月で死ぬ僕の命なんて、どうなったっていい。
だからお願いです。この子の未来だけは、この子の命だけは、僕に守らせてください――。
遠くの空から、またゴォォォ……と、地鳴りのような飛行機の爆音が響いてきた。
それは前よりも確実に大きく、そして近くに迫っていた。

