県大会が終わってから、時間が過ぎるのは早かった。
引退した6人は、それぞれの進路について考え始めていた。
高校最後の夏が終われば、次は卒業後の人生を決めなければならない。
同じ体育館で、同じユニフォームを着て、同じゴールを目指していた6人。
でも、これから先は、それぞれ違う道を歩いていく。
ある日の放課後。
6人は久しぶりに体育館の隅に集まっていた。
「なあ。」
ゆうとが言った。
「みんな、進路どうするの?」
「俺は決まってる。」
るいが答えた。
「就職。」
「俺も。」
りょうたが続ける。
「お前ら、就職なんだ。」
たくやが少し驚いた顔をする。
「うん。」
るいが頷いた。
「実は、結構前からいろんな会社の人に声をかけてもらってた。」
「え?」
しょうぶが驚く。
「なんで?」
るいは少し考えてから答えた。
「……挨拶とか。」
「挨拶?」
「うん。」
るいは笑った。
「インターンとか、企業の説明会とか、個人面談会とかに行ったんだけど。」
「そこで、挨拶を褒めてもらうことが多かった。」
りょうたが続ける。
「俺も。」
「あと、集中して話を聞けるとか。」
「周りを見て動けるとか。」
「誰かが困ってたら自然に助けられるとか。」
「そういうところを評価してもらった。」
「就職試験が始まる前から、何社か声をかけてくれた。」
たくやが目を丸くする。
「すげえじゃん。」
「まあ……ありがたいことだよね。」
るいは少し照れたように笑った。
「それで、最終的に決めたのが……」
るいがりょうたを見る。
りょうたも頷く。
「同じ会社。」
「え?」
全員が声を揃えた。
「俺とるい、同じところに就職する。」
「マジで!?」
ゆうとが笑う。
「高校卒業しても一緒かよ!」
「たまたま。」
りょうたが言う。
「いや、たまたまじゃないだろ。」
るいが笑った。
二人が選んだ会社。
それは――
**スポーツシューズやユニフォームなど、スポーツ用品を販売する会社だった。**
「俺、思ったんだ。」
るいが言う。
「高校3年間、ずっとバスケしてきて。」
「自分たちが使うシューズとかユニフォームとか、当たり前みたいに使ってたけど。」
「それを作ったり、届けたり、選ぶのを手伝ったりする人がいるんだよなって。」
りょうたが続ける。
「選手が安心して競技できるものを届ける側になりたい。」
「だから、ここなら自分たちがやってきたことも活かせるかなって。」
るいが笑う。
「それに。」
「ん?」
「高校卒業しても、りょうたと一緒に働くの、悪くないかなって。」
「俺も。」
りょうたも笑った。
6人の中で、初めて決まった二人の未来。
その未来にも、やっぱり二人は一緒だった。
---
### しょうぶの進路
「俺は……大学。」
しょうぶが言った。
「バスケは?」
ゆうとが聞く。
しょうぶは少し黙った。
「……最後まで悩んだ。」
「大学でもバスケを続けるか。」
「高校で終わりにするか。」
県大会の最後。
足がついて、それでもコートに戻りたかった。
あの日の悔しさは、今でも消えていない。
だからこそ、大学でもバスケを続けるという選択肢は、最後まで残っていた。
「でも。」
しょうぶは静かに言った。
「俺、高校以上の仲間に出会える気がしなかった。」
みんなが黙る。
「もちろん、大学でもいい仲間には出会えると思う。」
「でも……」
しょうぶは笑った。
「俺にとって、この6人は特別だったから。」
「だから、大学では別のことを見つけたいと思った。」
「それで、将来はスポーツドリンクの飲料メーカーで働きたい。」
「飲料?」
たくやが聞く。
「うん。」
しょうぶは頷いた。
「選手って、試合中も練習中も水分を取るだろ。」
「俺も何度も助けられた。」
「だから今度は、飲料の側から選手を支えたい。」
「直接コートに立たなくても、選手を支える方法はあると思う。」
「バスケをやめるんじゃなくて……」
しょうぶは少し笑った。
「違う場所から、スポーツに関わっていきたい。」
---
### ゆうとの進路
「俺は、体育大学。」
ゆうとが言った。
「お前はやっぱりバスケ?」
「うん。」
ゆうとは笑った。
「でも、選手じゃない。」
「指導する側。」
「先生?」
「そう。」
ゆうとは少し照れながら言った。
「高校の先生とか、中学校の先生になって、部活でバスケを教えたい。」
「……意外。」
りょうたが言った。
「なんで?」
「お前、先生とか興味なさそうだった。」
「実はな。」
ゆうとは笑った。
「高校のときから、ずっと憧れてた。」
「誰に?」
「佐々木先生と相澤先生。」
みんなが黙った。
「俺、二人のことすごいなって思ってた。」
「怒るときはめちゃくちゃ怖いけど。」
「でも、最後はちゃんと選手のこと考えてる。」
「俺たちが負けた日だって、二人とも俺たちのことを一番に考えてくれた。」
「だから思った。」
「俺もいつか、ああいう先生になりたいって。」
ゆうとは体育館を見渡した。
「勝たせるだけの先生じゃなくて。」
「選手が苦しいときに、ちゃんと気づける先生。」
「うまくいかないときに、一緒に考えられる先生。」
「怒るだけじゃなくて、最後にはちゃんと選手の背中を押せる先生。」
「……そんな先生になりたい。」
るいが笑った。
「ゆうとなら、なれそう。」
「ほんと?」
「うん。」
りょうたも頷いた。
「お前、人のことよく見てるから。」
「……それ、先生になったら役に立つかな。」
「絶対。」
ゆうとは少しだけ目を赤くした。
---
### れいの進路
「俺は工業系の大学。」
れいが言った。
「工業?」
「うん。」
「何作るの?」
たくやが聞く。
れいは少し考えてから答えた。
「シューズ。」
るいとりょうたが顔を見合わせる。
「高校のとき、守備で何度も相手についていった。」
「止めたいと思っても、一歩届かないことがあった。」
「もっと速く動けるシューズがあったら。」
「もっと踏ん張れるシューズがあったら。」
「もっと安心して守れるシューズがあったら。」
れいは自分の足元を見た。
「そんなシューズを作りたい。」
「守備職人だった自分だからこそ、分かることがあると思う。」
「絶対に守り抜けるシューズ。」
「選手が『この一歩なら届く』って思えるような。」
「……かっこいいじゃん。」
ゆうとが笑った。
れいは少しだけ笑った。
「まだ夢だけど。」
「夢じゃなくせばいい。」
るいが言った。
「うん。」
れいは小さく頷いた。
---
### たくやの進路
最後に、たくやが口を開いた。
「俺は……医療系。」
「医療?」
「うん。」
たくやは笑った。
「柔道整復師と理学療法士の資格が取れる大学に行く。」
「なんで?」
しょうぶが聞いた。
たくやは少しだけ黙った。
「……俺、高校のとき、あんまり試合に出られなかったから。」
みんなが黙る。
「最初は、悔しかった。」
「なんで自分は出られないんだろうって。」
「だから、せめて練習ではできることを増やそうと思った。」
「ストレッチとか。」
「身体の使い方とか。」
「怪我をしないためにはどうしたらいいかとか。」
「少しずつ調べるようになった。」
「そしたら、身体のことを勉強するのが面白くなって。」
たくやは笑った。
「自分が試合に出られないなら、出てる人を支えればいいじゃんって思った。」
「怪我した選手が、またコートに戻れるようにする。」
「痛くて悔しい思いをしてる選手に、寄り添える人になる。」
「それが、今の俺のやりたいこと。」
ゆうとが笑った。
「たくやらしいな。」
「そう?」
「うん。」
「いつも誰かを支えてたから。」
たくやは照れたように笑った。
---
6人は、しばらく何も言わなかった。
同じ体育館。
同じゴール。
同じ6人。
でも、もう分かっていた。
これから先は、6人で同じ場所にいるわけじゃない。
るいとりょうたは、スポーツ用品を届ける側へ。
しょうぶは、飲料から選手を支える側へ。
ゆうとは、指導者として選手を支える側へ。
れいは、シューズを作る側へ。
たくやは、身体のケアをする側へ。
誰一人、バスケットから完全に離れるわけではなかった。
形が変わるだけだった。
るいが笑った。
「……結局、みんなスポーツから離れないんだな。」
「確かに。」
りょうたが笑う。
「俺たち、どこまでいってもバスケ好きなんだよ。」
ゆうとが言う。
「当たり前だろ。」
しょうぶが笑う。
「3年間、あんなにやったんだから。」
れいも小さく笑った。
たくやは、体育館を見渡した。
「……ここでよかったな。」
「何が?」
「この6人で、高校生活できて。」
誰も否定しなかった。
県大会ベスト8。
最後は負けた。
でも、あの日の涙から、それぞれの未来が始まった。
そして数年後。
6人はきっと、それぞれ違う場所で働きながら、ふと思い出す。
体育館の床。
ボールの音。
先生の声。
家族の腕の温かさ。
そして――
6人で重ねた、あの日の手。
それぞれ違う道を歩いても。
あの3年間だけは、誰にも奪えない。
6人の青春は、そこで終わった。
そして。
6人の新しい人生が、そこから始まった。
引退した6人は、それぞれの進路について考え始めていた。
高校最後の夏が終われば、次は卒業後の人生を決めなければならない。
同じ体育館で、同じユニフォームを着て、同じゴールを目指していた6人。
でも、これから先は、それぞれ違う道を歩いていく。
ある日の放課後。
6人は久しぶりに体育館の隅に集まっていた。
「なあ。」
ゆうとが言った。
「みんな、進路どうするの?」
「俺は決まってる。」
るいが答えた。
「就職。」
「俺も。」
りょうたが続ける。
「お前ら、就職なんだ。」
たくやが少し驚いた顔をする。
「うん。」
るいが頷いた。
「実は、結構前からいろんな会社の人に声をかけてもらってた。」
「え?」
しょうぶが驚く。
「なんで?」
るいは少し考えてから答えた。
「……挨拶とか。」
「挨拶?」
「うん。」
るいは笑った。
「インターンとか、企業の説明会とか、個人面談会とかに行ったんだけど。」
「そこで、挨拶を褒めてもらうことが多かった。」
りょうたが続ける。
「俺も。」
「あと、集中して話を聞けるとか。」
「周りを見て動けるとか。」
「誰かが困ってたら自然に助けられるとか。」
「そういうところを評価してもらった。」
「就職試験が始まる前から、何社か声をかけてくれた。」
たくやが目を丸くする。
「すげえじゃん。」
「まあ……ありがたいことだよね。」
るいは少し照れたように笑った。
「それで、最終的に決めたのが……」
るいがりょうたを見る。
りょうたも頷く。
「同じ会社。」
「え?」
全員が声を揃えた。
「俺とるい、同じところに就職する。」
「マジで!?」
ゆうとが笑う。
「高校卒業しても一緒かよ!」
「たまたま。」
りょうたが言う。
「いや、たまたまじゃないだろ。」
るいが笑った。
二人が選んだ会社。
それは――
**スポーツシューズやユニフォームなど、スポーツ用品を販売する会社だった。**
「俺、思ったんだ。」
るいが言う。
「高校3年間、ずっとバスケしてきて。」
「自分たちが使うシューズとかユニフォームとか、当たり前みたいに使ってたけど。」
「それを作ったり、届けたり、選ぶのを手伝ったりする人がいるんだよなって。」
りょうたが続ける。
「選手が安心して競技できるものを届ける側になりたい。」
「だから、ここなら自分たちがやってきたことも活かせるかなって。」
るいが笑う。
「それに。」
「ん?」
「高校卒業しても、りょうたと一緒に働くの、悪くないかなって。」
「俺も。」
りょうたも笑った。
6人の中で、初めて決まった二人の未来。
その未来にも、やっぱり二人は一緒だった。
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### しょうぶの進路
「俺は……大学。」
しょうぶが言った。
「バスケは?」
ゆうとが聞く。
しょうぶは少し黙った。
「……最後まで悩んだ。」
「大学でもバスケを続けるか。」
「高校で終わりにするか。」
県大会の最後。
足がついて、それでもコートに戻りたかった。
あの日の悔しさは、今でも消えていない。
だからこそ、大学でもバスケを続けるという選択肢は、最後まで残っていた。
「でも。」
しょうぶは静かに言った。
「俺、高校以上の仲間に出会える気がしなかった。」
みんなが黙る。
「もちろん、大学でもいい仲間には出会えると思う。」
「でも……」
しょうぶは笑った。
「俺にとって、この6人は特別だったから。」
「だから、大学では別のことを見つけたいと思った。」
「それで、将来はスポーツドリンクの飲料メーカーで働きたい。」
「飲料?」
たくやが聞く。
「うん。」
しょうぶは頷いた。
「選手って、試合中も練習中も水分を取るだろ。」
「俺も何度も助けられた。」
「だから今度は、飲料の側から選手を支えたい。」
「直接コートに立たなくても、選手を支える方法はあると思う。」
「バスケをやめるんじゃなくて……」
しょうぶは少し笑った。
「違う場所から、スポーツに関わっていきたい。」
---
### ゆうとの進路
「俺は、体育大学。」
ゆうとが言った。
「お前はやっぱりバスケ?」
「うん。」
ゆうとは笑った。
「でも、選手じゃない。」
「指導する側。」
「先生?」
「そう。」
ゆうとは少し照れながら言った。
「高校の先生とか、中学校の先生になって、部活でバスケを教えたい。」
「……意外。」
りょうたが言った。
「なんで?」
「お前、先生とか興味なさそうだった。」
「実はな。」
ゆうとは笑った。
「高校のときから、ずっと憧れてた。」
「誰に?」
「佐々木先生と相澤先生。」
みんなが黙った。
「俺、二人のことすごいなって思ってた。」
「怒るときはめちゃくちゃ怖いけど。」
「でも、最後はちゃんと選手のこと考えてる。」
「俺たちが負けた日だって、二人とも俺たちのことを一番に考えてくれた。」
「だから思った。」
「俺もいつか、ああいう先生になりたいって。」
ゆうとは体育館を見渡した。
「勝たせるだけの先生じゃなくて。」
「選手が苦しいときに、ちゃんと気づける先生。」
「うまくいかないときに、一緒に考えられる先生。」
「怒るだけじゃなくて、最後にはちゃんと選手の背中を押せる先生。」
「……そんな先生になりたい。」
るいが笑った。
「ゆうとなら、なれそう。」
「ほんと?」
「うん。」
りょうたも頷いた。
「お前、人のことよく見てるから。」
「……それ、先生になったら役に立つかな。」
「絶対。」
ゆうとは少しだけ目を赤くした。
---
### れいの進路
「俺は工業系の大学。」
れいが言った。
「工業?」
「うん。」
「何作るの?」
たくやが聞く。
れいは少し考えてから答えた。
「シューズ。」
るいとりょうたが顔を見合わせる。
「高校のとき、守備で何度も相手についていった。」
「止めたいと思っても、一歩届かないことがあった。」
「もっと速く動けるシューズがあったら。」
「もっと踏ん張れるシューズがあったら。」
「もっと安心して守れるシューズがあったら。」
れいは自分の足元を見た。
「そんなシューズを作りたい。」
「守備職人だった自分だからこそ、分かることがあると思う。」
「絶対に守り抜けるシューズ。」
「選手が『この一歩なら届く』って思えるような。」
「……かっこいいじゃん。」
ゆうとが笑った。
れいは少しだけ笑った。
「まだ夢だけど。」
「夢じゃなくせばいい。」
るいが言った。
「うん。」
れいは小さく頷いた。
---
### たくやの進路
最後に、たくやが口を開いた。
「俺は……医療系。」
「医療?」
「うん。」
たくやは笑った。
「柔道整復師と理学療法士の資格が取れる大学に行く。」
「なんで?」
しょうぶが聞いた。
たくやは少しだけ黙った。
「……俺、高校のとき、あんまり試合に出られなかったから。」
みんなが黙る。
「最初は、悔しかった。」
「なんで自分は出られないんだろうって。」
「だから、せめて練習ではできることを増やそうと思った。」
「ストレッチとか。」
「身体の使い方とか。」
「怪我をしないためにはどうしたらいいかとか。」
「少しずつ調べるようになった。」
「そしたら、身体のことを勉強するのが面白くなって。」
たくやは笑った。
「自分が試合に出られないなら、出てる人を支えればいいじゃんって思った。」
「怪我した選手が、またコートに戻れるようにする。」
「痛くて悔しい思いをしてる選手に、寄り添える人になる。」
「それが、今の俺のやりたいこと。」
ゆうとが笑った。
「たくやらしいな。」
「そう?」
「うん。」
「いつも誰かを支えてたから。」
たくやは照れたように笑った。
---
6人は、しばらく何も言わなかった。
同じ体育館。
同じゴール。
同じ6人。
でも、もう分かっていた。
これから先は、6人で同じ場所にいるわけじゃない。
るいとりょうたは、スポーツ用品を届ける側へ。
しょうぶは、飲料から選手を支える側へ。
ゆうとは、指導者として選手を支える側へ。
れいは、シューズを作る側へ。
たくやは、身体のケアをする側へ。
誰一人、バスケットから完全に離れるわけではなかった。
形が変わるだけだった。
るいが笑った。
「……結局、みんなスポーツから離れないんだな。」
「確かに。」
りょうたが笑う。
「俺たち、どこまでいってもバスケ好きなんだよ。」
ゆうとが言う。
「当たり前だろ。」
しょうぶが笑う。
「3年間、あんなにやったんだから。」
れいも小さく笑った。
たくやは、体育館を見渡した。
「……ここでよかったな。」
「何が?」
「この6人で、高校生活できて。」
誰も否定しなかった。
県大会ベスト8。
最後は負けた。
でも、あの日の涙から、それぞれの未来が始まった。
そして数年後。
6人はきっと、それぞれ違う場所で働きながら、ふと思い出す。
体育館の床。
ボールの音。
先生の声。
家族の腕の温かさ。
そして――
6人で重ねた、あの日の手。
それぞれ違う道を歩いても。
あの3年間だけは、誰にも奪えない。
6人の青春は、そこで終わった。
そして。
6人の新しい人生が、そこから始まった。



