あの日の続き

新チームになって、一週間。
体育館には、少しずつ新しい空気ができ始めていた。
「ラスト一本!」
しょうぶの声が響く。
「いけるぞ!」
ゆうとが叫ぶ。
「おうせい、右!」
「はい!」
ボールが動く。
パス。
ドライブ。
シュート――。
ガンッ。
リングに弾かれた。
「ごめんなさい!」
おうせいがすぐに謝る。
「切り替えろ!」
しょうぶが声をかける。
「次!」
けれど、おうせいは少し俯いた。
その様子を、るいは見ていた。
「おうせい」
「はい」
「今の、何が悪かった?」
「……シュートを外しました」
「それだけ?」
「……」
「違う」
るいが言った。
「シュート外すのは誰でもある」
おうせいが顔を上げる。
「今のプレーで大事なのは、そのあと」
「……戻りです」
「そう」
るいは頷いた。
「外したことを気にして、戻るのが一歩遅れた。それだけ」
「はい」
「だから次は戻ろう」
「……はい!」
おうせいが顔を上げた。
その横で、ゆうとが親指を立てる。
「いいじゃん」
「ありがとうございます!」
「俺も昨日シュートめっちゃ外したし」
「ゆうとはいつも外してる」
れいが淡々と言う。
「れい!?」
体育館に笑い声が響いた。
けれど、その日の五対五。
なかなか噛み合わなかった。
パスミス。
ターンオーバー。
ディフェンスのズレ。
シュートも入らない。
「もう一回!」
しょうぶが言う。
それでも、またミス。
「……なんでだよ」
しょうぶが苛立ったように呟いた。
その声に、ゆうとが振り返る。
「しょうぶ」
「何?」
「ちょっと落ち着こう」
「落ち着いてる」
「いや、落ち着いてない」
「……」
しょうぶの顔が険しくなる。
「じゃあどうすればいいんだよ」
「え?」
「俺だって分かんないんだよ」
体育館が静かになった。
「みんなにもっと声出せって言って、もっと走れって言って……」
しょうぶが言葉を続ける。
「でも、俺自身もミスしてるし」
「しょうぶ」
るいが声をかける。
「……悪い」
しょうぶが頭を下げる。
「今日はもう一回やろう」
るいが言った。
「次は、勝つとか負けるとかじゃなくて、さっきより一本多くパスを繋げよう」
りょうたが頷く。
「それならできる」
「だな」
ゆうとも頷いた。
再開。
今度は、少しずつ声が増えた。
「右!」
「スクリーン!」
「ナイス!」
「もう一回!」
さっきまでバラバラだった六人が、少しずつ繋がっていく。
最後。
りょうたから、るいへ。
るいが一度止まって、しょうぶへ。
しょうぶがゴール下へ。
そこに、ゆうと。
「はい!」
パス。
シュート。
入った。
「よっしゃ!」
ゆうとが叫ぶ。
たくやが笑う。
「今のよかった!」
れいも頷く。
「さっきより全然いい」
しょうぶは息を切らしながら、笑った。
「……うん」
るいがボールを拾う。
「もう一本やる?」
「やる」
しょうぶが即答した。
「まだ終わってない」
練習が終わったあと。
みんなが着替えている中、しょうぶだけが体育館に残っていた。
一人でシュートを打つ。
一本。
外れる。
もう一本。
入る。
また一本。
その様子を、るいが体育館の入口から見ていた。
「しょうぶ」
「……るい」
「まだやるの?」
「うん」
しょうぶはボールを拾う。
「今日、俺ダメだったから」
るいは少し黙った。
「ダメじゃないよ」
「でも――」
「キャプテンだから、全部できなきゃいけないと思ってる?」
しょうぶの手が止まる。
「……ちょっと」
「俺も部長だから、同じこと考えてた」
「るいも?」
「うん」
るいは笑った。
「でも昨日、しょうぶに言ったじゃん」
「何を?」
「一人でやるわけじゃないって」
しょうぶが黙る。
「俺たち六人でやるんだよ」
「……」
「だから、しんどいときは言っていい」
るいはそれだけ言って、体育館を出ようとした。
「るい」
「ん?」
「……ありがとな」
「うん」
るいは笑った。
「明日も頑張ろう」
体育館の外。
先に帰ったと思っていたゆうとが、廊下の壁にもたれていた。
「……聞いてた?」
るいが聞く。
「ちょっとだけ」
「そっか」
「しょうぶ、頑張りすぎるよな」
「うん」
ゆうとは体育館を見る。
「でも、俺らもそうかもな」
「え?」
「れいも、たくやも、りょうたも」
一度言葉を切って、
「みんな、自分のこと後回しにするじゃん」
るいは少し考える。
「……そうかも」
「だからさ」
ゆうとは笑った。
「今年は、ちゃんと頼るチームにしようぜ」
「頼る?」
「うん」
「誰かが苦しかったら、他の五人が支える」
ゆうとはそう言って、拳を握った。
「そのほうが、なんか俺たちらしいじゃん」
るいも笑った。
「そうだな」
春の夕方。
体育館から聞こえてくるボールの音が、二人の後ろで静かに響いていた。
まだ始まったばかりの一年。
六人はまだ知らない。
「頼っていい」と言い合えるようになるまでに、自分たちが何度もぶつかることを。
そして、その中で。
今まで言えなかった気持ちが、少しずつ表に出てくることを。