あの日の続き

翌日。
放課後の体育館。
「集合!」
しょうぶの声が響いた。
昨日までは先輩たちが立っていた場所に、今日は三年生六人が並んでいる。
るい、しょうぶ、りょうた、ゆうと、れい、たくや。
その前には、二年生と一年生。
「今日から本格的に新チームでやるぞ」
しょうぶが言った。
「……って言っても、昨日も普通に練習したけどな」
ゆうとが横から口を挟む。
「お前は黙ってろ」
「はいはい」
ゆうとは笑って一歩下がった。
そのやり取りを見て、一年生たちも少し笑う。
空気が少し和らいだ。
るいは全員を見渡した。
「今年は、去年より一つ上を目指したい」
誰も口を挟まない。
「県大会でベスト4に入ること」
その言葉に、何人かが顔を上げる。
簡単な目標ではない。
去年も、その一つ手前で終わった。
「でも、俺はそれだけじゃないと思ってる」
るいは続けた。
「試合に出てる人だけじゃなくて、ベンチにいる人も、練習を支えてくれる人も、全員が同じチームだと思える一年にしたい」
静かに聞いていたりょうたが、初めて口を開いた。
「それ、大事だと思う」
全員がりょうたを見る。
「試合に出る五人だけで勝てるわけじゃないから」
短い言葉。
でも、誰も反論できなかった。
「……だよな」
しょうぶが頷いた。
「よし。じゃあ練習始めるぞ!」
その日の練習は、いつもより少し厳しかった。
新チームになったばかり。
先輩としての責任もある。
しょうぶは細かいところまで声を出した。
「おうせい、今の戻り遅い!」
「はい!」
「もう一回!」
「はい!」
おうせいが走る。
その横で、ゆうとが、
「ファイトー!」
と声をかける。
「ゆうと、お前も走れ」
しょうぶが言う。
「俺は応援担当」
「そんな担当ねぇよ」
笑い声が起こる。
けれど、数分後。
ゆうとは誰よりも大きな声でチームを盛り上げながら、自分も一番速くコートを走っていた。
一方。
反対側のコートでは、れいがディフェンスについていた。
相手は一年生のあつき。
「もっと腰落として」
「はい」
「あと半歩、左」
あつきが動く。
「そう」
れいは必要なことだけを伝える。
「れい!」
しょうぶから声が飛んできた。
「そっち終わったら次、五対五!」
「分かった」
れいが返事をする。
その直後。
「れい、今のもっとこうしたほうが――」
しょうぶが言いかける。
「いや」
れいが止めた。
「それだと中が空く」
「でも――」
「俺はこっちのほうがいいと思う」
一瞬、空気が止まった。
れい自身も少し驚いていた。
普段なら、
「分かった」
と受け入れてしまう。
でも今日は違った。
しょうぶがれいを見る。
「……じゃあ、やってみよう」
「うん」
その様子を、ゆうとが少し離れた場所から見ていた。
そして、小さく笑った。
練習が終わった。
「疲れたー!」
たくやが床に座り込む。
「お前、今日何回疲れたって言った?」
りょうたが言う。
「五回くらい?」
「もっと」
「じゃあ七回」
「数えてないから分かんないけど」
たくやが笑う。
そこへ、るいがやってきた。
「たくや」
「ん?」
「今日のシュート練習、最後まで残ってたよな」
「え?」
「一人で」
たくやの笑顔が一瞬止まる。
「いや、たまたま」
「たまたま?」
「そうそう。なんとなく」
るいは何も言わず、たくやを見る。
たくやは笑って、
「別に大したことじゃないって」
と言った。
「……そっか」
るいはそれ以上聞かなかった。
ただ、
「じゃあ、明日も頑張ろうな」
と言った。
「おう!」
たくやは笑った。
いつもの笑顔だった。
体育館の片付けが終わり、みんなが帰り始める。
最後まで残ったのは、るい、しょうぶ、りょうた、ゆうと、れい、たくやの六人だった。
「なあ」
ゆうとが言った。
「今年さ」
「ん?」
「俺ら、結構いいチームになるんじゃね?」
しょうぶが笑う。
「まだ始まったばっかだろ」
「だからこそ」
ゆうとは体育館を見渡した。
「なんか、楽しそうじゃん」
「……まあな」
れいが頷く。
たくやも笑った。
「絶対楽しいって」
りょうたは何も言わなかった。
ただ、少しだけ笑っていた。
るいはそんな五人を見て、
「じゃあ」
と言った。
「今年、やろうか」
「何を?」
ゆうとが聞く。
るいは笑った。
「本気で」
その言葉に、誰も笑わなかった。
しょうぶが一番最初に頷いた。
「やろう」
りょうたも。
「うん」
ゆうとも。
「もちろん」
れいも。
「……うん」
たくやも。
「やろうぜ」
六人の声が重なった。
まだ春。
大会までは、時間がある。
だからこそ、このときの六人は知らなかった。
この「六人でやろう」という約束が、これから何度も揺らぐことになることを。
そして、そのたびに。
誰かが誰かを支えることになることを。