ギャルが異世界にトリップしたら、暗殺一家の大公子とスパダリ婚する事になりました

甘野芣婭 (17歳)

ケロちゃんとベロちゃんに蹴り飛ばされたコウモリは、泣きながら芣婭の前まで飛んでくる。

「うぅ…、ケルベロス様に蹴られました…」

「あの、うちのケロちゃんとベロちゃんがごめんね?大丈夫そ?」

「はわわわ…!!!」

「はわわ?顔赤いけど、マジで大丈夫そ?」

「好きです」

そう言って、コウモリは芣婭のほっぺにピトッとくっつき愛の告白をしてきたが、ケロちゃんが恐ろしい顔をして芣婭から引き剝がす。

「殺されたいんですか?貴方。次、軽々しく芣婭に触れたら殺しますよ」

「ヒィ!?も、申し訳ありません!!!気を付けます!」

「芣婭達を迎えに来たんだよね?魔界から来たの?」

ケロちゃんに怒られているコウモリが可哀そうにな
り、声をかけるとコウモリが芣婭の前まで羽ばたいてくる。

「はい!ダンタリオン様の使いとして、ケルベロス様とその御主人様を迎えにきました」

「丁度良かったわ、魔界に連れてけ」

「分かりました!」

「あ、ちょっと待ってね?ヴィオちゃん、ママとパパの事お願いします」

ベロちゃんに断りを入れてから、ヴィオちゃんに改めて2人の事をお願いすると、ヴィオちゃんは優しく微笑みながら口を開く。

「ロールベルク夫妻の事は、イーヴェル家が守るから安心て」

「うん、ヴィオちゃんにお任せするね。それじゃあ、ちょっと魔界に行ってくる!」

「それでは、ダンタリオン様の城に御案内します!こちらの魔法陣の中に入って下さい」

「はーい」

コウモリに言われた通りに紫色の魔法陣の中に入ると、一瞬で芣婭達の姿がヴィオちゃん達の前から消えた。

***

甘野芣婭達が魔界に旅立った後、ヴィオレット達がいる客室の扉が静かに開かれ、1人の50代女性が部屋の中に入って来た。

白髪の長い髪を髪留めで緩くまとめられ、左目はレースの眼帯で隠されており、アメジスト色の瞳が怪しげに輝き、パンツスーツスタイルがよく似あっている。

女性の姿を見たコンラット達はすぐに立ち上がり、女性に向かって膝をつく。

「エルミナ様、御挨拶が遅れてしまって申し訳ございません」

「気にしなくて良い、お前も大変だったな?コンラット。お前達も楽にしてくれ」

「お心遣い感謝いたします、公爵」

コンラットとレヴァリオは改めて女性にお礼を言ってから、ソファーに腰を下ろす。

彼女こそが、このイーヴェル家の公爵であるエルミナ・イーヴェル本人であり、ガルシアの友人でもある女性だ。

「お母様の占い通りに街に出向いたら、皇太子殿下がバンビちゃんに見合い話を持ち掛けていましたわ」

「バンビ?あぁ、ギルベルトの運命の女(ファム・ファタール)の事か。それで?バンビちゃんは魔界に行った所か」

「え、それも分かるんですか!?公爵」

「おい、ニックス!」

ニックスのフランクな話し方を指摘しうよと、レヴァリオが声を荒げるがエルミナが静止させる。

オスカーは要れたての紅茶が入ったカップをエルミナの前に置き、紅茶を啜りながらコンラットに声をかけた。

「コンラット、ガルシアが1週間、軟禁される事になる」

「現皇帝が下した命令でですか?いつもみたいな感の」

「私の連絡鳥に監視させていたのだが、現皇帝が宰相を務めていたジャンゼン公爵を暗殺しろと命じていたよ」

「ジャンゼン家を消せと命じたと言う事ですね。ですが、ジャンゼン家を消せばエスポワールの国王が良い顔しないのでは?エスポワールと良好な関係を築いたのは、ジャンゼン公爵ですし」

コンラットとエルミナの会話を聞いていたレヴァリオが、顎の手を添えながら呟く。

「ジャンゼン家が現皇帝のやり方についていけなくなってな、現皇帝がこれまでしてきた悪事を独自で集めていたのだが。秘書のアズバルトが嗅ぎ付け、現皇帝に報告し、ギルベルトに暗殺するように命じたと言う所だ。ガルシアが意見したんだが、腹を立てた現皇帝がいつものように軟禁したと言う所だ」

「まさか、ジャンゼン家を消すと言い出すとは…、現皇帝の考えが計り知れないですね」

「自分の立場を守る為なら、どんなに自分の為に尽くしてくれた人間でも切り捨てるのが今の皇帝だ。我々の倫理など、余裕で超えるのさ」

「現皇帝の不満を持っている人間は多い、口には出さないと思いますが」

「フッ、レヴァリオを騎士にするのは勿体ないな、お前が宰相になったらどうだ?」

「御冗談でも、公爵に褒められて光栄です。ですが、私は芣婭様に忠誠を尽くしておりますから。彼女の側を離れるるつもりはありません」

エルミナの言葉を聞いたレヴァリオは、冗談だと分かっているがエルミナの提案を断る。

「しっかり、主人の事をしっかり守る事だな。ヴィオレット、奴の姿が見せないがどこに行った?」

「あぁ、兄上はいつものように何も言わずに出て行きましたよ。ですが、兄様はお母様の役に立つ行動をしていますわ」

「奴は私の役に立つ事なんか考えていないさ。今夜、私もイーヴェル家に同行しよう。お前では舐められる可能性があるからな」

「お母様が居れば、皇太子殿下も大きく出れないでしょうね。バンビちゃんとの約束を守る為、お母様の御都合が会えばお願いしますわ」

紅茶を飲みほしたエルミナは懐から1枚のカードを取り出し、コンラット達にカードに描かれた絵柄を見せた。

カードには骸骨の死神が1人の男の首を鎌で刈ろうとしてる絵で、このカードが何の意味を示しているのかはコンラット達は分からない。

「エルミナ様、このカードは何ですか?」

「死神の名を持つ、タロットカードの一種だ。意味は死と再生、現皇帝を興味本位で占った所、このカードが飛び出してきた」

「死神ですか…、エルミナ様に占いは当たりますからね。頭の片隅に入れさせてもらいます」

「さて、時期に日が暮れる。オスカー、馬車の用意を」

「かしこまりました、すぐに」

エルミナから指示を受けたオスカーは、一礼してから客室を出て行き、コンラット達に視線を向ける。

「コンラット、お前達はカーディアック家に帰り、ギルベルト達の出迎えてやれ。もしかしたら、奴が邪魔する可能性があるからな。相手をしてやってくれ」

「分かりました。俺達は先に失礼させて頂いても、宜しいですか?」

「あぁ、オスカーがお前達の分の馬車の手配をしているだろう。その馬車を使ってくれて構わない」

「わざわざすみません、ありがとうございます。俺達はこれで失礼します」

コンラットがエルミナに向かって頭を下げてから、ニックスとレヴァリオの2人も頭を下げてから客室を出て行った。

***

その日の夜、エルミナ公爵とヴィオレット、オスカーの3人はロールベルグ家に訪れ、夫妻に占いで見た起こる未来の話を伝えた。

「すみません、公爵。私達の為にお越しくださって…、感謝します公爵」

「気にしなくて良い、君達夫妻の娘がうちの娘に頼んでいたようだ。お礼を言うなら娘に言ってあげてくれ」

「芣婭が…、あの今日の昼間の事を妻から聞きました。ヴィオレット嬢にも助けて頂いたようで」

シュバルトはエルミナの隣に座っているヴィオレットに視線を向ける。

「気にしないで下さいな、私とバンビちゃんの仲ですもの」

「あのバンビちゃんと言うのは、うちの娘の事で間違いないですか?」

「えぇ、バンビちゃんと今後も仲良くさせていただきますわ」

「この世界で友人が出来るのは、芣婭も少しは安心出来ると思いますので。仲良くしてもらえると、助かります」

2人が話している中、ロザリアは不安げな表情を浮かべて、エルミナに尋ねた。

「あの、うちの娘は魔界に行かれたと聞いたのですが…」

エルミナはすぐに何が彼女を不安にさせているのか見抜き、優しい口調で話をする。

「娘から聞いたが、バンビの契約している悪魔は戻ってくると言っていたそうだ。彼等もバンビの意志を尊重しているようだし、信じて良いと思う」

コンコンッと扉を数回叩かれてから、部屋の外からシエサがシュバルト達に声をかけた。

「旦那様、皇太子殿下と騎士達が来られました」

「シュバルト、私とオスカーも相手をしよう。すぐに終わらせよう」

「え!?あ、公爵!?」

「ヴィオレット、夫妻のお相手しろ。オスカーは私と皇太子殿下の相手を」

「かしこまりました」

腰に下げていた剣に触れながらオスカーは返事をし、エルミナを先頭にシュバルトとオスカーは部屋を後にする。

「大丈夫かしら…」

「その心配はご無用ですわ、ロザリア様。もし、戦闘になったとしても、うちのオスカーは強いですから」
ヴィオレットは微笑みながら、ロザリアに笑いかけた。

エルミナ達から部屋を出て表玄関に視線を向けると、グロウヴィーはルカリオと数人の白騎士団(ホワイトナイト)の相手をしているのが見えた。

「君の屋敷は主人である公爵が出迎えに来ないのか?」

「申し訳ありません、皇太子殿下、旦那様は…」

「さて、若造の高くなってる鼻を負ってやらないとな」

「え?!」

2人のやり取りを見ていたエルミナは、シュバルトを置いて階段を下りて行く。

ヒールの鳴る音が聞こえ、ルカリオが階段に視線を向けると、エルミナの姿を見て驚きを隠せなかった。

「おや、皇太子殿下。貴方もお茶に誘われたのかな?」

「イーヴェル公爵…、貴方が何故ここに」

「友人であるシュバルトに誘われていてね?まさか、皇太子殿下まで来るとは思ってもいなかったが」

「貴方とロールベルク公爵と繋がりはなかった筈では」

ルカリオの前に立ったエルミナとオスカーの姿を見て、白騎士団(ホワイトナイト)に騎士達は表情を青くさせて行く。

オスカーの剣の腕の噂は白騎士団(ホワイトナイト)内でも広まっており、喧嘩を売りたくない相手の1人である。

「皇太子殿下が私の友人関係の事を知らないのは当たり前だろう?私自身ではないのだから。それとも、御父上に報告しておいた方が良かったかな?」

「…いえ、その必要はありません」

エルミナがルカリオに高圧的な態度をとっても、ルカリオは強気に出れない理由があった。

彼女はルナ帝国の軍事力には必要な存在であり、彼女の能力で戦況を立ててもらっているからである。

公爵家ではあるが、ルナ帝国の戦力に大きく関わっているからこそ、現皇帝はエルミナに下手な態度をとって機嫌を取っていたのだ。

「先に客人が居たようだ、今日の所は失礼させて…」
「皇太子殿下、あまりおいたが過ぎた行動はとらない事だ。私の目が届く範囲ではね」

「…、頭の片隅に入れておきますよ」

そう言って、ルカリオは白騎士団(ホワイトナイト)達を連れて、慌ただしく表玄関を後にした。

***

時を戻して、現在深夜。

ジャンゼン家に侵入したギルベルトの前に、暗がりの中から1人の男が料理場に現れる。

蝋燭の火に照らされた男の顔を見て、ギルベルトは溜息を吐きながら近くにあった木の椅子に腰を下ろした。

色白の肌にワインレッド色のサラサラの髪、薄い黒の丸サングラス越しからサファイアの瞳が覗き、耳には沢山のピアスが輝き、全身黒で統一されたコーデが似合っている男。

男の体に纏われた甘いバニラの香水の香りが、ギルベルトの鼻に届く。

「あれ?もしかして腰ぬかしちゃった?大丈夫?ギル」

「お前、俺に黙って目の前に現れるのは何回目だよ…」

「んー、3回くらい?」

「3回どころじゃないだろ…、お前は本当に」

「おいおい、俺とギルの仲じゃないか」

男の言葉を聞いたギルベルトは男の顔を見て、懐から煙草を取り出し咥えると、男はギルベルトが持っていた煙草の箱から1本抜き取った。

「ランスロット、自分の煙草があるだろ」

「丁度、切らしちゃってるんだよねぇ」

「今まで姿を見せないと思ったら、こんな所で何してるんだ…、ランスロット」

ギルベルトがランスロットと呼んだ男こそが、イーヴェル家の長男であるランスロット・イーヴェルである。

公爵家の長男でありながら彼は自由気ままに姿を消し、ふらりと姿を現してはまた消えるを繰り替えす男だ。

幼馴染のギルベルトはランスロットの行動を理解出来ない部分があるが、ランスロットは表と裏の社会で顔が広く、皇族から他国の貴族の情報を持ち、情報屋のような取引もしている。

「ギル、現皇帝の命令でジャンゼン夫妻を暗殺しに来たんだろ?殺されると困るんだよねぇ、こっちとしては」

「ジャンゼン夫妻や使用人達が居ないのは、お前が逃がしたからか」

ギルベルトはそう言いながら、煙草の煙を天井に向かって吐き出す。

「ジャンゼン公爵と現皇帝の意見の食い違いが起きていた事は聞いた?」

「現皇帝の口から直接聞いただけだが、お前が手に入れている情報の方が信憑性があるんだろ?どこから手に入れた情報かは知らないが」

「そもそも、何でジャンゼン公爵が現皇帝の悪事を暴こうとしたのか。今まで、公爵は現皇帝の我儘(わがまま)を何十年も聞いていて、我慢してきたのに殺される覚悟で行動を起こしたのか。疑問に思わなっかった?」

ランスロットの言葉を聞いて、ギルベルトは吸殻をポケット灰皿にしまい、思考を巡らせていく。

ジャンゼン公爵が宰相になったのは皇太子が2歳の頃で、20年以上も現皇帝の事を嫌な顔1つも見せずに続け、このまま続けていたら安定した生活を送れていた筈だ。

ストレスはあるかもしれないが、この国の皇帝に恨まれる方が生き辛くなるのは宮廷勤めの人間なら誰でも思うだろう。

「宮廷勤めの人間達が、現皇帝や皇族に嫌気がさしている噂は耳にした事があるが…。ランスロット、お前が俺に話そうとしていると言う事は、俺にも1枚噛ませようとしているんだろ?」

「さすが、ギルは僕の理解者だねぇ。ギルもこの暗殺には乗り気じゃなかっただろ?コンラット達が屋敷の周囲で待機していないし、ギル1人でこここに来る事は分かっていたからね」

「俺1人だけに聞かせたい話と言う事か、何だ。何を掴んだ、ランスロット」

ギルベルトに尋ねられたランスロットは煙草を吸いながら、中身が入った(たる)の上に腰を下ろしながら口を開く。

「現皇帝の子供は1人だけって世間に公表してるじゃない?本当はもう1人いるみたいなんだよ。それも年子の」

「もう1人?皇太子に弟が居るって事か?」

「后妃様の乳母(うぼ)をしていた女性から聞いた話だから、間違いはないよ。実際に3歳まで世話をしていたからね?その女性が宮廷に勤めていた事実も確認出来ているし、この情報は確かなものだよ」

「この事は宮廷に勤めている奴等は知っているのか」

「今、残ってるメンバーは現皇帝から十分な金を握らされて黙認してるよ」

現皇帝のやり口の1つで、金を渡して相手を黙らせる方法だ。

金の誘惑と言うものは恐ろしく、黙っていれば金が貰えるのだから、黙っている人間が多いだろう。

たまたま金にがめつい奴等が集まっていた事が、現皇帝には救いの1つには違いない。

「ランスロット、皇太子の弟は宮廷内にいるのか」

「乳母が3歳まで世話をしていたと言っていただろ?3歳の事に捨てられたそうだ、乳母と数名の護衛騎士達も国を追い出されたって。本人としてもいきなり、解雇され国外追放されたそうだ」

「その乳母本人がお前に話したのか?どこでその乳母と会ったんだ」

「それは教えられないなぁ、ギル相手でもね?ただ、今は弟君とは行動を一緒にしていないと言う事は教えられるよ」

ギルベルトの脳内に理解が追い付かない量の情報が刻まれ、ランスロットの話を1回で理解するのは難しい。

何故、現皇帝はもう1人の息子と乳母と数名の騎士達を国外追放し、その事を世間に隠し続けているのか。

金を渡してまで世間に知られたくない秘密があると言う事だけは、ギルベルトはすぐに理解出来た。

ギルベルトの中で沸いた疑問をランスロットに投げかける。

「弟の国外追放とジャンゼン公爵は何か関係していると言うのか」

「御名答、ジャンセン公爵がエスポワールと友好関係の掛け橋となっているだろ?いつものようにエスポワールに訪れた時に、皇太子殿下とそっくな青年を見かけたそうで」

「隣国のエスポワールに身を潜めていたと言う事か?」

「公爵は弟君の事を自分の息子のように可愛がっていたようでね、弟君と接触したそうだ。その事はギルが来る前に聞かされたよ」

「お前はその話を逃がす前に聞いたのか?聞いたから逃がしたんじゃなくて?それだったら、何で逃がしたんだ」

ランスロットは不敵な笑みを浮かべながら「僕の占いの結果さ」と答え、更に言葉を続ける。

「ジャンゼン夫妻を逃がした方が、この先に天狗になってる現皇帝の驚く顔が見れると思ってね。僕は面白いものが見たいだけだし?ギルも嫌々だったらな良いじゃない」

「お前の事だ、住処も用意して逃がしたんだろ。場所はエスポワールか」

「丁度、エスポワールに家を買っていたから、一時的だけど住ませる事にしたよ。弟君との何を話したかは教えてくれなかったけど、全部一気に知っても面白くないし?深くは聞かなかったけどね」

「ランスロット、弟君の件だが…」

「分かってるよ、この件はギルにも参加してほしいから話をしたんだ」

そう言って、ランスロットは腰を上げて立ち上がり、ギルベルトに前に移動した。

「現皇帝には夫妻を暗殺してきた事にしてほしい、あの皇帝なら殺した証拠を持って来いって言ったんだろ?用意はしてあるよ」

「人でも殺してきたか?ランスロット」

「そんな訳ないでしょ?ほら、これ」

ランスロットは膨らみがある大き目の布袋を渡し、ギルベルトに袋の中身を確認させる。

渡された布袋の中身を確認してみると、2体のゴブリンの頭だけが入っており、ランスロットに視線を送った。

「そのゴブリンの頭には、幻影術を施してある。あの現皇帝なら、気付きはしないさ。なんせ、君達の事を信頼しているからねぇ」

「気持ち悪い事を言うな。まぁ、お前の魔法なら騙されるだろう」

「一応、夫妻の寝室にも、そのゴブリンの胴体を置いて幻影術をかけてあるし。屋敷全体にもかけてあるから、ギルは心配しなくて良いよ」

「待て、屋敷には白騎士団(ホワイトナイト)の調査団を送って来る筈だ。魔法道具を使って、調査が入れば幻影術はバレるんじゃないか…、あ」

話をしていたギルベルトは途中か、ハッとしてランスロットの顔を見つめる。

「お前、他にも何か知ってるな?」

「今日の正午、白騎士団(ホワイトナイト)が魔石洞窟の調査に向かって行った所を見たんだ。ギルの報告を聞いて、調査団だけで魔石洞窟周辺と洞窟内を調査した所、上位悪魔が居た形跡が判明したらしいよ。
団長のガルバットは今日の調査に調査団も連れ出している」

「だから幻影術を使ったのか。俺が今から報告しに行ったとしても、調査団が調査に来れない。調査が早く終わっていたら、来るかもしれなくないか?」

「今回の調査は早くも2日は掛かると思うよ」

ギルベルトには何故、根拠もなくランスロットが言い切るのか分からない。

そんな事を思っていると、ランスロットはギルベルトの疑問を晴らす言葉を放った。

「今回の調査には力を入れない訳にはいかないんだよ。何故なら、数日前に異世界から光の姫(ライトプリンセス)がやって来たそうだ」

「は?それは本当なのか」

「宮廷の使用人から貰った情報だよ、君の運命の女(ファム・ファタール)がこちらの世界に来ただろう?同じタイミングで、もう1人異世界からやって来た。悪魔が現れ出したら、光の姫(ライトプリンセス)の力を借りなくてはならなくなるだろ?」

この話を聞いて、ギルベルトはランスロットの顔の広さ、持っている情報の量に関心してしまった。

「お前って、本当に…」

「ギルの役にも立っているんだし、結果オーライでしょ?あ、早いとこ方向に行こうよ」

「あ?急に急かし出してなんだ?」

「君のお姫様に、皇太子殿下がちょっかいをかけてる話もしたいし?」

「はぁ!?どういう事だ!!!」

驚いたギルベルトは、ランスロットの肩を力強く掴む。

「痛たたっ!?ちょっとギル!力強すぎるって!?」

「詳しく教えろ!どういう事だ!?」

「それはー、ギルの家でゆっくり話そうよ」

「早く行くぞ!お前は先に屋敷に行ってろ!!!」

そう言って、ギルベルトは勢いよく料理場を飛び出して行く姿を見て、ランスロットは少年のように笑いだす。

「あははは!あんなギルは初めて見たなぁ…。どんなお姫様なのか、僕も会ってみたいなぁ」

新しいおもちゃでも買い与えられた子供のような表情を浮かべて、ランスロットもジャンゼン家を後にした。