死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

「労咳は恐ろしいですね。あっという間に千太からお母様に移って、命を奪うんですから」

 母の葬儀のあと、呆然としながらそう言うと、父が静かに首を横に振った。

「この病には、潜伏期間がある。絹子は千太の看病をし始める前に、症状が出ていないだけで、すでに感染はしていたんだと思う」
「潜伏期間……」

 気づかないうちに、母にも労咳の魔の手が襲いかかっていたのだ。
 千太の看病疲れで体力が落ち、症状が出始めたのだろうか。

「この診療所だが、しばらく閉めることにした」
「え?」

 突然父がそう言ったため、私は目を丸くした。患者に寄り添い、熱心に治療していたのに、どうして……。

「おそらく、開けていても誰も来ないだろう。息子を亡くし、そのあと妻まで亡くしたんだ。悪い噂が立つに決まっている。ふたりが労咳で死んだという事実も、広まるのは早そうだ」

 父は、冷静に今後の状況を予測していた。
『男爵家から労咳患者が出た、ヤブ医者だ』と、謂れのない中傷をされる未来が見えていたのだ。

「わかりました。お父様、しばらくふたりでひっそりと暮らしましょう」