死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

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 そんなある日、弟が熱を出して数日寝込んでしまった。
 千太は現在十七歳。五年制の旧制中学をこの春に卒業したばかりで、四月からは高等学校に進学が決まっている。

「しばらく寝ていたら治るでしょう。入学式も控えてるし、早く良くならないとね」

 母の絹子(きぬこ)はそう言って、父が処方した漢方薬を弟に飲ませ、かいがいしく看病していた。
 しかし、しばらくして回復したと安堵した途端に、また調子が悪くなり……弟は寝たり起きたりを繰り返すようになる。
 結局、四月の入学式には参列できなかった。それどころか、まだ一日も高等学校には通えていない。

「千太を離れに移しなさい。必要以上の接触は禁止だ」
 
 弟は咳が出始めて痩せていき、体調は悪化の一途をたどった。
 そんな中、胸の聴診や打診から肺の病かもしれないと察した父が、弟を離れに隔離するよう指示を出したのだ。

 ‟労咳(ろうがい)(結核)”は死の病と呼ばれていて、人に感染するため、非常に忌み嫌われている。
 治療薬は存在せず、空気の良いところで安静にしているよりほかにない。

 五月。血痰を出した弟の容態が急速に悪化した。

「まさか、千太を見捨てる気ですか? それではあまりにもあの子がかわいそうです!」