死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

「天澤様、いらっしゃいませ」
「こんにちは。お茶、ありがとうございます」
「いえいえ。とんでもありません。父がいつもお世話になっております」

 机の上には父が記録してきた診療日誌があり、天澤さんは万年筆を手に、なにか気になったことを紙面に書いていたみたいだ。
 天澤家の現当主であり、会社では社長として精力的に事業を拡大していると聞いている。
 私より七歳年上の彼は、私よりもはるかに大人で、人としても素晴らしい。

「なんだ? まだそこにいるつもりか?」

 お茶を出し終えたあと、その場に立ち尽くしていたら、父が顔を上げてそう言った。
 思わずハッとして小さく首を横に振る。

「す、すみません。失礼します」

 あわてて一礼し、すぐに部屋を退出した。
 扉を閉める際、目が合った天澤さんは、私を見て口もとをほころばせていた。……恥ずかしい。

 父の治療の経験と、天澤製薬の薬学の研究で、病で苦しむ人が少しでも回復してくれたらと、私は常にそう願っていた。