死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

 眉をひそめてポツリとつぶやく彼に向け、私はふるふると首を横に振った。
 篤志さんこそ、私と家族のあいだで板挟みになっていて、つらい思いをしているのではないかと心配になってくる。

「当然ですよ。労咳は……怖い病気ですから」

 不治の病だと言われて忌み嫌われている労咳。お義母様たちが、それを家に持ち込まれたくないと思う気持ちは理解できる。私を疫病神のように感じる気持ちも。

「琴乃は優しいし、強いな。お父上譲りだ」
「そのお言葉だけで救われます」

 私は家族を全員失ったけれど、篤志さんは生前の父をよく知っている。彼となら、父の思い出話ができるのだ。今はそれだけで幸せだと思える。

「これからも困ったことがあれば俺に言ってくれ」
「ありがとうございます。もう、十分守ってくださっていますよ?」

 私の言葉を聞いた篤志さんは、一瞬だけ目を見張った。
 そして、寄せていた眉根を緩め、フッと息を漏らして目もとに手をやった。

「……君には敵わないな。まだ夫らしいことは何ひとつできていないというのに」

 そんなことはないという意味を込めて、首を小さく横に振った。彼には本当によくしてもらっている。

「そろそろ時間だ。大通りに車が来ているころだろう。行こうか」
「はい」