死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

 私はスプーンを握ったまま、あまりの美しさに食べるのも忘れて、感嘆の吐息を漏らした。
 崩してしまうのがもったいないと思いながらも、私はスプーンの先でバニラのアイスクリンをすくい、そっと口に運んだ。ひんやりとしたなめらかな甘みが、舌の上でとろけるように広がっていく。
 続いてシロップ漬けのみかんを食べてみると、甘酸っぱさが絶妙なアクセントとなって口内を満たした。

 これまで食べたどの和菓子とも違う贅沢な味わい。これが‟パフェ”というものなのだわ。
 感動した私は、篤志さんへにっこりとした笑みを向けた。

「こんなにおいしいものだったんですね。人気が出るのもうなずけます」
「口に合ってよかった」

 幸せに浸る私を、篤志さんは運ばれてきた珈琲のカップを片手に、どこか満足そうに見つめていた。

「近くに綺麗な庭園があるんだ。その景色を楽しんでから帰ろう」
「はい」

 カフェをあとにした私たちが向かったのは、見事な松の木や季節の草花が美しく配置された、広大で静かな日本庭園だった。
 一歩足を踏み入れると、耳に届くのは心地よい鹿威(ししおど)しの音と、木々を揺らす穏やかな風の音だけになる。

 どこかホッとする風景を眺めながら、私は篤志さんの後ろを、歩調を合わせるようにしてゆっくりと歩いた。
 彼は時折、私を気遣うように振り返り、「歩きにくくはないか」と優しい言葉をかけてくれた。

「あそこに座ろう」

 篤志さんが指差したのは、大きな池を一望できる、立派な藤棚のふもとにある木製の長椅子だった。