死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

 ガラス張りのショーウインドウに飾られた異国の帽子や絹のショール、そしてハイカラな文字で書かれた看板が、右を向いても左を向いても目に飛び込んできて、どこに視線を落ち着ければいいのかわからない。
 お屋敷での日々が嘘のように、私の心は自然と弾んでいた。

「あ、ブーツ……」

 店先に展示してあるブーツに目が留まった。若い女性のあいだで流行しているというだけあって、とても洒落ている。

「買うか? 一足くらい持っていてもいいだろう?」
「いえ、大丈夫です。……私は草履で」

 小さく首を横に振った。興味はあったけれど、私にはブーツを履いて出かけるような機会がない。買っても宝の持ち腐れになるだけだ。

 本当は、銘仙とブーツを合わせたあの‟モダン”な装いに、少しだけ憧れがある。だけど、贅沢を望んではいけないと、いつのまにか自分に言い聞かせる癖がついてしまっていた。

 そうして再び歩き出したとき、通りの角にあるひときわ大きな本屋が目に飛び込んできた。
 店内には高く積まれた新刊の山や、格式高そうな和洋の書物がずらりと並んでいるのが見える。
 女学生のころ、時間を忘れて本を読んでいた懐かしい記憶が蘇り、私は自然と足を止めてしまった。

「素敵ですね……」

 彼も自然と立ち止まり、その大きな本屋へ視線を走らせる。

「本が好きなのか?」
「あ……はい」