死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

 私は発症していない、健康体だといくら説明をしても、お義母様にとっては信じられるものではないのだろう。
 どこまでいっても平行線。覆されることのない‟拒絶”だ。

「母上」

 言葉が過ぎると言わんばかりに、篤志さんが低い声を出して制してくれたけれど、お義母様は顔を背けて部屋の中へ入ってしまった。それを見て、鈴子さんたちも同様に背を向ける。

 長い廊下を通り抜け、用意されていた私たちの居室へと足を踏み入れた。
 そこは実家のこぢんまりとした部屋とは違って広々としていたけれど、私が持参したものは葛籠がひとつ。死病を出した実家からあれこれ持ち込むのは嫌がられる気がしたため、細かい物は新調しておいた。その荷物は先に届いているはずだ。

「……すまない。いきなり嫌な思いをさせて……」

 篤志さんは上着のボタンを外しながら、神妙な面持ちでそう切り出した。
 彼の瞳には、家族の暴言を止められなかった悔しさが滲んでいる。

「私は平気です」

 家族を三人立て続けに亡くしたあと、どれだけ偏見の目に晒されてきたことか。
 そのたびになるべく人目につかないよう気配を消し、息をひそめて生きてきたのだ。
 嫌な顔をされても「ああ、またか」と、あきらめの心境になることには慣れてしまった。