死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

 彼は伯爵家の当主であり、押しも押されもせぬ天澤製薬の社長だ。
 私は家族も爵位も失い、死病を出したと世間から後ろ指をさされる身。
 そんな私に、彼は求婚するというの?

「そのご厚意に甘えるわけにはいきません。ご迷惑がかかります」
「迷惑ではありません」
「ですが……」

 彼はただ、父に頼まれたから、私に手を差し伸べようとしているだけだ。
 天涯孤独になった私を憐れんでいるだけ。

「琴乃さんは先ほど、民衆に向かって言いましたよね。病にかかることは罪ではない、誰しも患う恐れがある、と」
「……はい」
「私は、人の命を奪う病が憎いです」

 天澤さんはそう言って、太ももの上に置いていた両手をギュッと握りしめた。
 そこには、理不尽に命を奪っていく病への怒りと、それを根絶したいという気持ちが見て取れる。

「お父上が研究してこられた医学と、あなたの看病の経験は、とても貴重なものです。天澤製薬に……いや、私に力を貸してほしい」

 彼の漆黒の瞳が、私を真っすぐに射貫いて離さない。
 それはただの同情ではなく、父の背中を見て学んできた桐ケ谷琴乃というひとりの人間を認めてくれたような眼差しだった。