死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

 手紙を読み終えた途端、瞳から涙がポロリとこぼれ落ちた。
 人前では絶対に泣くまいと心に決めていたのに……。父の直筆を見たら、こらえるのは無理だった。

「……すみません」

 手の平で涙を拭っていると、天澤さんが背広の内ポケットから白いハンカチを差し出した。
 
「父が勝手なお願いをして、申し訳ありません。お忘れください」
「いや、しかし……」
「私は大丈夫です。何とか生きていけます」

 父が亡くなったばかりで、自分の身の振り方なんて考えていなかったけれど。
 父は病床にいながらも、娘の私のことを考えていてくれたのだ。

 手紙の文字が、最後のほうはわずかに震えている。きっと、もう筆を持つ力すら残っていなかったのだろう。
 その崇高さを誇りに思いつつも、ひとりぼっちになる娘を心配しながら死んでいった父の孤独を思うと胸がギュッと締めつけられて、とめどなく涙があふれた。

「一年後、喪が明けたら私のところへ来ませんか?」
「……え?」
「結婚しましょう」

 天澤さんの口から信じられない言葉が飛び出し、私は差し出されたハンカチを受け取ったまま固まってしまった。
 ドクンと心臓が大きな音を立てて跳ね上がる。涙で濡れた視界の先で、彼の切れ長な瞳が私を捉えていた。