死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

「はい。たった今。事後報告になってすみません。病が病ですので、最初から私ひとりで見送るつもりでいました」
「琴乃さんおひとりで……」
「大丈夫です。お寺のご住職には、弟や母のときからお世話になっていて、今回もとても手厚く供養してくださったんです」

 誰にも頼るつもりはなかった。頼れば迷惑をかけてしまうから。
 父がそうしてきたように、私も同じことをするだけ。

「先ほど……実は遠くから見ていました」
「え?」
「心ない陰口に立ち向かっていましたね」

 その言葉に、私はハッと息をのんだ。
 必死に凛と振る舞ったつもりだったけれど、彼にすべて見られていたのだと思うと、急に言いようのない恥ずかしさと情けなさがこみ上げてきて、私はあわてて視線を床へと落とした。

「お恥かしい限りです」
「そんなことない。言い返して当然です」

 顔を上げると、天澤さんは真剣な表情で私に視線を送っていた。
 揺るぎない瞳で見つめられているうちに、世間の冷たい言葉に傷ついていた胸の痛みが、不思議なほど和らいでいくのを感じた。

「先日、お父上から薬の注文をいただきましたよね」

 彼の言葉に、小さくうなずいた。診療所にはない生薬を手に入れたいからと、父は天澤さん宛てに手紙をしたためていて、私が郵送したのを覚えている。