死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

「病にかかることは罪ではありません。誰しも患う恐れがあるのですよ」

 立ち止まってそう返すと、人々は眉をひそめながらヒソヒソと何か言葉を交わしていた。

「怖いのはわかります。でも、父も母も弟も、立派な人間でした」

 自分でも驚くほど毅然とした声が出た。だけど、それで世間の目が変わるわけじゃない。
 この場にいた全員が私から視線を逸らし、蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。それを見届けたあと、そっと自宅の門をくぐった。
 するとすぐに、「ごめんください」と玄関先のほうから声がした。

「天澤様……」

 ガラガラガラと引き戸を開けると、黒の背広とネクタイ姿の天澤さんが立っていた。

「この度はご愁傷様です」
「お気遣いありがとうございます。あ、どうぞ上がってください」

 天澤さんは静かにうなずき、革靴を脱いで上がると、私のあとに続いて廊下を歩いた。
 私以外誰もいなくなった屋敷の空気は冷たく、ふたりの足音だけが虚しく響く。
 応接間へ案内すると、天澤さんは勧められたソファーに腰を下ろした。

「もう、葬儀は済んでしまったのですか?」

 台所でお茶を淹れて戻ってきた途端、彼がそう尋ねた。