死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~

 その後、年が明けてお正月を迎えても、我が家は何も変わらなかった。
 父は寝たり起きたりで、食欲は徐々になくなっていった。それでも身体が弱るのを防ぐため、食事で栄養を摂ろうとがんばっていた。
 しかし、咳や痰はひどくなり、ついに喀血の症状も現れて……。

 大正六年三月。あっという間に父もこの世を去った。
 父の病状が悪化してからは、こうなる覚悟をしていたつもりだった。だけど、実際には受け止めきれなかった。
 私には、一緒に父の死を悲しむ家族がいない。天涯孤独の身になったのだ。

 お寺でひっそりと父の葬儀をしてもらった。参列者は娘の私ひとりきり。
 正喪服の着物姿のまま家に帰る途中、街の中で何人もの人から刺すような冷たい視線を感じた。

「桐ケ谷先生のお嬢さんよ。……お気の毒ね。でも、やっぱり怖いわ」
「三人も亡くなったのでしょう?」
「労咳は死病だもの。子どもたちには近づかせられないわ」
「ねえ、早く行きましょう」
 
 聞こえてきた心ない言葉が、胸にザクザクと傷をつけていく。
 陰口を言っているのは、うちのご近所の人たちだった。
 その中には以前、子どもが高熱を出したと言って、夜中に診療所の扉を叩いた女性もいた。
 あのとき父は、追い返したり嫌な顔をしたりせず、きちんと診察していたのに……。